ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、プラットフォームXでウクライナとイスラエルの両国がウクライナの防空強化について協議したことを明らかにした。同大統領はキエフでイスラエルのギデオン・サール外相と会談し、共同兵器生産の可能性についても話し合ったと発表している。
ゼレンスキー大統領、イスラエルのサール外相と会談 2025年7月23日 ウクライナ大統領府公式サイトから
サール外相は、ロシアの侵略と闘うウクライナ国民の粘り強さを称賛し、イスラエルがウクライナとの関係強化に関心を持っていることを強調し、「私たちは友人だ。あらゆる面で関係を強化するためにここに来た。この関係を強化できることを願っている。それは私たちにとっても重要だ」と述べた。
会談は経済協力と防衛協力に焦点が当てられた。特に、両国はウクライナの防空能力強化と共同兵器生産の機会について協議した。
ウクライナとイスラエル両国にとって共通の軍事的脅威はイランだ。イランはウラン濃縮関連活動を継続し、核兵器の製造に強い関心を示してきた。イスラエルは6月13日早朝、イランの核兵器製造を阻止するために米軍と連携してイランの主要な3か所の核関連施設を空爆し、イランの核開発計画を大きく後退させたばかりだ。ただし、イラン側は核開発計画の継続を宣言している。一方、ウクライナはロシアから戦闘ドローンの攻撃を受け、民間人にも多くの犠牲が出ている。その戦闘ドローンの多くはイラン製無人機(シャヘド)だ。イランはロシアに無人機やミサイルを供与し、ロシア軍を軍事的に支援している。すなわち、ウクライナとイスラエルにとって「イラン」が共通の敵というわけだ。
ウクライナのシビハ外相は「両国は共通の安全保障上の課題に直面している」と指摘、「そこで両外相はイランの脅威に関する個別の対話を開始することを決定した」という。
ウクライナにとって特に関心がある分野はイスラエルが誇る対空防衛システム(アイアンドーム)だ。迎撃成功率は80 %から90 %ともいわれる。イスラム過激派テロ組織が発射するミサイルを撃墜させるためにイスラエルが米国の支援を受けて開発したものだ。
ウクライナはロシア軍に制空権を握られ、ここにきて数百の無人機攻撃を受けて、首都キーウでも多くの民間人に犠牲者が出ている。それだけに、ゼレンスキー大統領は米国や北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対空防御システムの提供を要請してきた。ウクライナにとって、イスラエルから防空システムの技術移転が可能ならば理想的だろう。
サール外相は、ウクライナ政府がイラン政府関係者への制裁措置と、イスラエルによるイランの核施設への攻撃を支援したことに感謝の意を表明。また、イスラエルはロシアとの戦争においてウクライナを支援していることを強調した。
ちなみに、ロシア軍のウクライナ侵攻後、イスラエルは暫くは中立の立場を取り、モスクワへの制裁を課さなかった。これは戦略的な理由に加え、イスラエルのユダヤ人人口の5分の1がロシア系であることから、両国間の良好な人間関係も理由の一つだ。そのイスラエルはここにきてロシアとは距離を置く一方、ウクライナ支援を鮮明にしている。
ウクライナとユダヤ人の関係は、歴史的に複雑だ。ウクライナには古くからユダヤ人が居住し、ポグロム(ユダヤ人迫害)やホロコーストといった悲劇も経験している。ロシア軍のウクライナ侵攻後、多くのユダヤ人がイスラエルに移住している。ゼレンスキー大統領自身はユダヤ人だ。一方、ロシアに住んでいたユダヤ人もウクライナ戦争後、ロシアからの出国が絶えない。ロシアに住むユダヤ人人口は現在約19万人と推定されている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。