日本からカナダに戻ってくると途端に外食に対するワクワク感が消滅します。アメリカでも同じだろうと思います。今更なぜだろうと考えてみたのですが、提供されるフードが当たり前以上の何物でもないからかもしれません。日本ではサプライズ的においしいレストランだらけなのですが、カナダは高い、美味くない、サービスもイマイチなのにサービス料が18%であきらめの境地なのであります。
時折行く韓国料理屋。本来であれば客で賑わう午後7時。夏のこの時期に客ゼロ。理由はわかっています。単品の肉料理はほとんどが一皿4000円以上で高すぎなのです。注文した焼肉と冷麺のセットは3000円、焼肉は4枚だけ。顔見知りの店長からはまた来てね、と言われるも「どうしようかなぁ」。
一方、大賑わいなのが中華系のフードコート。特に非常に美味いと評判の小籠包を提供するある店は午前10時半ぐらいに行かないと席もないし、注文して出来上がるのにも待たされます。中国人もわかっているのでしょう。フードコートにも安くておいしいところはあると。価値あるものへの消費はビジネスの原点なのです。
直近2回の訪日はZIP AirというJAL系のLCCに乗ったのですが、結論からすると使い方次第では悪くないかもしれないと思ったのです。フルサービスの航空会社ではミールサービスが決まった時間に決まったものが配膳されます。航空各社はこの差別化を図ってきたわけでビジネスマンによる「〇〇航空の機内食はうまい」といった口コミが評価を支えています。ただ以前から申し上げているように私は昔、飛行機のケータリングビジネスをしていたのでそのレベルはわかっています。なので機内食のために血眼になって航空会社を選ぶのはちゃんちゃらおかしいわけです。
ZIP Airも機内ミールは有料で提供しています。が、私は2度と食べたいとは思わないし、実際、そのサービスを受けている人は全体の半分か1/3程度の乗客のみです。有料の機内食は決して安くないのにレベルは申し訳ないぐらい低いのです。ではお前はどこを評価しているのか、と思われるでしょう。要は自分の好きな食べ物を持ち込み、腹がすいた時に勝手に食べればよいという自由度に価値を感じたのです。日本とバンクーバーは9時間ぐらいかかりますから2食持ち込みます。1食は普通にデパ地下のようなところで弁当を、2食目はおにぎりセットとかおかずパンのようなものでばっちりなのです。
つまり価値とは提供されるのを待つのではなく、自らが創造して生み出すことであり、LCCは新幹線の飛行機版のようなものであり、飛行機は移動手段以外の何物でもなく、それ以上の付加価値は自分でカバーすればよいだけの話なのです。
私は最近、自分の事業に関して新規事業を立ち上げて手を広げることよりも手持ち事業の質の向上にシフトしています。多分、私だけではなく、多くの日本企業がそうしていると思います。日経や一般紙を見る限り、このところ企業による新製品の発表が減って来たと思います。新製品のプレスリリースは星の数ほどあるのですが、大きく賑わせる記事は減ってきました。一方で各社血眼になって質の向上を伴う販売促進を図っているように感じます。
私の場合、経営するシェアハウスや外国人向けアパートで新規入居がある場合、特段の配慮をしています。例えば入居前の清掃は私が日本にいる限り清掃をしてくださる方と一緒に共同で磨き上げます。特に床はモップではなく、洗剤と雑巾で蓄積した汚れを取り除きます。また家具や調度品も早めの入れ替えを進め、新しい人が入居後には「居心地はどうですか?」と必ず聞くようにしています。外国人はほぼ何らかの注文を付けてくるので少額で済むものなら購入してあげています。つまり基本のサービスプラス御用聞きをして更にバリューアップを図っています。故に退去した方々から「とても良かった」と高評価を頂いているのは滞在中、一定のアテンションをしてカスタマイズしたサービスをしているからでしょう。これは部屋数が多い大規模な施設ではなかなかできないサービスです。
同じようにカナダのマリーナ事業でもグループホーム事業でもより顧客に寄り添ったサービスを提供することを心がけています。
『なぜ看板のない店に人が集まるのか スモールビジネスという生存戦略』(田中森士著)という本があります。この書ではスモールビジネスのだいご味は客と事業主のダイレクトな結びつきで個性的かつ、細かい客対応ができることが特徴的と記しています。その通りですね。
例えは悪いですが、もしも街中にあるスナックが日本全国チェーンだったらどうしますか?時々ママが変わり、スタッフの入れ替えも激しくて顔も名前も覚えてもらえなければ客はつかないでしょう。「あら、山田さん、1年ぶりじゃないの、いらっしゃい」といわれると覚えてくれていたと思い、顧客は嬉しいのです。一定のファンに圧倒的魅力を感じてもらうことで大企業の商品やサービスと差別化を図っているともいえます。
ただし、そこで勘違いしてはいけないのはスモールビジネスが必ずしも汎用ビジネスにはならないのです。飲食系事業者で時折その勘違いをされる方がいますが、スモールビジネス経営者のクローンはできないのであります。スナックママの良子さんが2号店のスナック良子を開店しても店長が恵子さんだと1号店の良子さんと連関性は浅くなり、水平展開したとは言えないのです。理由はスナックの酒は何処でも同じ味であり違いは誰がサーブするかしかないからです。寿司屋の2軒目を作るのが難しいのは寿司屋は寿司ネタだけではなく、寿司屋のオヤジとの心地よい空間がバリューアップになるのです。これは人間がAIにそこまで感化されていないとも言えるのかもしれません。

Yue_/iStock
日本人の消費に対するこだわりは世界でも最も高い水準とされます。その中で次のレベルに行くには押し付けではなく、カスタマイズがキーワードになると思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月28日の記事より転載させていただきました。







