篠田英朗『地政学理論で読む多極化する世界:トランプとBRICSの挑戦』(かや書房)を、7月30日に公刊した。
『戦争の地政学』(講談社新書、2023年)で扱った「二つの地政学理論」で、トランプ大統領の思想やBRICSの志向する政策の特徴を分析したものだ。おかげさまで、『戦争の地政学』は、Springerさんから来年には英語版を公刊する予定だ。さらに、台湾でも翻訳版が出版される予定である。
今回の『地政学理論で読む多極化する世界』は、現代世界の時事問題を扱う一般向けの書として位置付けているが、それにしても理論的な視点を体系的に応用する姿勢は貫いた。
キーワードとなっているのは、「多極化する世界(multipolar world)」だ。これはBRICSが首脳会談の成果文書などで用いる概念である。ロシアの「新ユーラシア主義」、中国の「中華思想/一帯一路」、インドの「ヒンドゥー至上主義」といった概念を参照しながら、主要なBRICS構成諸国の思想的傾向を、「大陸系地政学理論」の視座を援用しながら、分析した。
さらに『地政学理論で読む多極化する世界』では、トランプ大統領が持つ「新しい19世紀」と呼ぶべき思想傾向を、「モンロー・ドクトリン」「アメリカン・システム」「マニフェスト・デスティニー」などの概念を参照しながら分析した。それらは結果的に、「多極化する世界」との親和性を持っていく。
日本の国内政治にも影響が出てきている国際的な思想傾向の現象を、より一般性の高い言葉で言い換えれば、「リベラル国際主義」の退潮の後に生まれてきた、「反グローバル主義」の思想が、「多極化する世界」を用意している、ということだ。
「自由民主主義の勝利」の物語によって象徴されるバラ色の冷戦終焉後の世界のイメージは、今や完全に過去のものとなりつつある。それは単に理想主義的すぎて実現しなかったのではない。
一握りの「グローバリスト」のエリートたちに都合の良い「新植民地主義」あるいは「文化帝国主義」が、それぞれの地域の土着の「国家」あるいは「文明」の独自性を無視した。そのため、世界のいたるところで反発を招いている、というもう一つの物語が、力を得ている。
「民主主義の輸出」を通じた「ネオコン」主導の「対テロ戦争」の幻想が、信頼性を完全に失った。その後の時代に、必然的に「多極化する世界」のビジョンが力を持ち、現実の国際政治も動かしている。
日本政治における新興政党の勢力拡大も、こうした世界的な現象と、無関係ではない。
巷では、「…べきだ」「…してはならない」論ばかりが目立つが、まずは冷静に、国際社会全体の動向を見据えながら、日本政治の流動化の性格をとらえていく視点も必要である。
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