今週、アメリカ、カナダ、日本のそれぞれの中央銀行政策決定会合では金利を据え置きました。先週の欧州ECBも据え置きました。基本的な理由はトランプ関税による先行きが不透明ということですが、それよりも夏の会合では大きな決定はなるべくしないという要素も大きいと思います。

トランプ大統領 ホワイトハウスHPより
夏に金融政策の変更をすると市場参加者が夏休みなどで動きにくくなっている中でボラティリティが大きくなるリスクがあり、政策決定者はあまりそれを好まないのでしょう。例えば昨日、パウエル議長が記者会見を始めたのが東部時間午後2時半。市場は4時に閉まるので動画の画面ではパウエル氏と株価指数が並び、指数がパウエル氏の発言に一喜一憂して反応していくのです。記者会見が始まるときは3指数(ダウ、S&P、ナスダック)共にプラス圏。ところがパウエル氏の頑なな姿勢、特に記者会見でそのあたりをつっ込まれるととまるで壁を作るような態度を示し、能面のようなパウエル氏の無表情で同じことを繰り返す姿勢に指標はじわじわ下落して、ダウは一時300㌦を超える下げを見せました。
つまり何もなくても反応が大きくなるのが夏市場の動きです。為替も円が150円台をつけましたが、これも同様で、行き過ぎなのですが、それを止められないのです。
さて、日本、アメリカ、カナダ3人の金融政策決定者の発言はどれも似たものでした。つまり関税の影響の行方を見定めたいと。これは妥当だと思います。では9月には動くのでしょうか?動く可能性はあります。ただし、世の中に何も起きなければ、という前提です。
まず、トランプ氏主導の関税が8月1日に発効します。ただ、7月31日になって銅に課す関税について精錬したものは除くと発表し、ニューヨークの銅市場は過去最大の22%程度の下げとなり、ロンドン市場と同じかやや下回るところまで一気に調整されました。これなどは完全にサプライズで市場関係者は慌てふためいており、「急いで輸入した銅をどうしてくれる!」という嘆き節が出ています。
ブラジルに対しても50%の関税と言いながら除外項目が既に600程度あり、トランプ氏はブラジルとトップ交渉をするとしています。メキシコとの電話交渉では90日間延長戦が先ほど決定されました。ロシア産品を輸入している中国やインドへの懲罰的関税についてもかけると言いながらまだよくわからない状況です。つまりこれを書く7月31日時点でもわからないことだらけであります。
カナダのマックレム中銀総裁は「アメリカの関税に対してカナダ企業は打たれ強くなった」とコメントしているのが印象的でした。事実、カーニー首相は「アメリカと期限までに交渉はできそうにもない」とあきらめの状況にある一方、カナダの株価指数は最高値を更新しており、企業業績も悪くはありません。
日本に関して言えば秋(9月か10月)にもう一段の利上げの準備は整いつつあり、こちらも何もなければ上げてくるとみています。日本の場合、読めないのが政治情勢で自民党総裁問題だけではなく、解散総選挙が視野に入ってくれば動けなくなります。
また昨日指摘したパレスチナの国家承認について国連でどのような展開となるのか、これも波乱要因で歴史が動く可能性があると指摘させていただきました。アメリカが拒否権を提示する限りパレスチナの国連加盟はないのですが、主要国が承認し、仮に各国がパレスチナに領事館から格上げして大使館設立の動きとなればイスラエルとアメリカがどのような態度を示すか次第でこちらも波乱要因です。
また中国では北戴河会議がそろそろ始まるわけで習近平氏を取り巻く環境に何か変化が起きるのか、ここにも注目が集まります。アメリカと中国の関税交渉も延長戦に突入していますが、最終決定者の習近平氏の動向が影響していることは間違いなく、トランプ氏も習氏と会談すると述べています。トランプ氏が10月にマレーシアで開催されるASEAN会議に出席すると発言しました。アメリカはASEAN会議のコアメンバーではないですが、拡大会議では米中や日本を含めたメンバーが集まるのでそこで習氏と話をする可能性があるとみています。
他にもロシアやインドなど潜在的問題はたくさんありますが、夏休みだけは見ないふりをしますのであと数週間は企業決算以外は何も出てこないことを祈るだけであります。夏のお化けは困ります。
ただ、そのしわ寄せが秋に来るのも風物詩のようなもの。その点で「秋は気をつけよ」とくれぐれも申し上げておきます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年8月1日の記事より転載させていただきました。






