黒坂岳央です。
「20代の内は仕事はほどほどにしてよく遊び、30代から頑張ればいい」という趣旨の投稿をよく見る。言いたいことはわからなくもないが、それを言葉通りに実現できた事例はほとんどない。
筆者は20代前半まで遊び、その後に遅れを取り戻すべく努力をしたつもりだが、この遅れは会社員としてキャリアを形成の上で致命的な遅れとなった。自分はなんとかキャッチアップできたが、20代をサボらずに頑張った人より何倍も努力が必要だったし、変化の早い今の時代では通じなかっただろうと思う。
厳しい現実として、30代・40代で仕事を頑張るには20代でハードワークしておく必要がある。結局、仕事は地続きになっているので20代を遊んで過ごすと、30代以降はかなり難しくなってしまう。

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第一印象が未来を決める
20代、特に新人時代に「こいつはデキる」「ぜひこの仕事をさせてみよう」と決裁者に思わせることができれば、その後のキャリアは比較的スムーズに運ぶしビジネスチャンスもつかめる。この現象には「初頭効果、ハロー効果」といった心理学的な裏付けがある。
つまり、最初に「優秀」と見なされれば、その評価はなかなか覆らない。一方で「この人はだめだ」と判断されると、悪印象を挽回するには多大な労力が必要となる。
そして評価基準は年齢で大きな差があり、加点基準で評価が甘い時期に「どれだけスキルや経験、実績を作れるか?」ということが極めて重要だ。これが中高年になると「その年齢ならこのくらいできて当たり前」となる。逆に小さな失敗が大きなマイナスとなる「減点評価」がベースだ。
そのため、「新人時代の好印象」は貴重な資産となるのだ。
日本より厳しい海外
こういう話をすると「日本は年齢差別がひどいが、その一方で海外はチャンスが開かれている」といった意見が出てくる。だが、職場における「初速優位」「可能性を見てもらえるのは若手の内」という考え方はアメリカや中国などでも基本的に同じである。
アメリカでは、試用期間があり、多くの企業が3〜6ヶ月の研修期間を設けている。この期間は単なる“トレーニング”ではなく、実質的に「長い面接」のように機能する。
たとえばGoogleやAmazonのような大手企業でも、最初のプロジェクトで成果が出なければ早期に契約終了となるケースは珍しくない。人材流動性が高いアメリカでは、即戦力性と適応力が重視され、初速で評価を獲得できない者は容赦なく弾かれる職場もある。
中国はさらに厳しい。都市部のホワイトカラー層にとって、「35歳定年説」は現実味のある脅威だ。多くの企業が35歳を超えると未経験職種への転職は困難になるだけでなく、大手IT企業では40歳前にリストラされるケースも珍しくない。
このため、若いうちから猛烈に働き、短期間で成果を出して昇進・昇給を目指す働き方が一般化している。最初の3年で昇進できなければ、以後は“閑職”に回されることもあり、実力主義と年齢差別が混在する過酷な環境となっている。
つまり、「若手のうちにパフォーマンスを見せろ」という圧力は、むしろ日本よりも強烈ですらある。
「初速主義」は悪いことか?
当然ながら、「初速だけでキャリアが決まるのは不公平だ」という反論もある。
- 人には向き・不向きや適応速度がある。
- スロースターターの人材を早期に切り捨てるのは損失。
- プライベートや健康とのバランスも必要。
こうした意見はその通りであろう。しかし、残念ながらこの世は競争社会であり、企業の評価システムには「個人の事情を考慮する余裕」はないのだ。
組織は“早く結果を出す人材”を求める構造になっている。だからこそ、評価されやすい若いうちに“信用資本”を積み上げておくことが、長期的に見て最もリスクが低く、報われやすい戦略となる。
これは個人レベルで文句を言っても変えることができない。そのため、「自分のペースでのんびりやらせて」ではなく「若手のうちに死にものぐるいで食らいつく」という気概が求められる。
◇
「最初の1年で人生が決まる」とまでは言わないが、「最初の1年が、その後のレールを敷く」のは事実である。昨今、「ワークライフバランスでプライベートはしっかり遊びたい」という意見が多いが、いざ会社が傾いた時は誰も助けてくれない。救ってくれるものがあるとすれば、それまでの自分の頑張りのみなのだ。




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