イスラエル兵士の中でPTSDや自殺が増加:ガザ地区では6万人が戦争と飢餓の犠牲に

イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ地区での戦闘が長期化しているが、ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのエルケ・ビュヒター記者によると、イスラエル軍の中で戦いに疲労を覚え、深刻な精神的傷(心的外傷後ストレス障害=PTSD)を負って戦線から離脱する兵士や自殺者が増えている。2025年現在で既に16人の兵士が自殺した。昨年の一年間では21人、2023年は17人だった。

ネタニヤフ首相、イスラエル国防軍の装甲部隊と戦闘工兵の新兵に挨拶,イスラエル首相府公式サイトから、2025年8月5日

そのような中、イスラエルの報道によると、ネタニヤフ首相は7日、安全保障閣僚会議を招集し、ガザ地区における今後の軍事作戦を話し合い、ガザ地区の完全制圧に乗り出すことを決めた。報道によると、作戦は4か月から5か月は続くという。

長時間に及んだ閣僚会議後、首相府が8日早朝発表したところによると、イスラエル軍がガザ区を完全に制圧するが、ガザを統治する意向はないという。ネタニヤフ首相が前日、米Foxニュースとのインタビューの中で、「ガザ制圧後、アラブ系の勢力によって統治される」と述べているが、具体的な内容は不明だ。ただ、「ハマスでもパレスチナ自治政府でもない他の選択肢」という。また、停戦の条件としては、ハマスの完全壊滅、人質の全員解放、ガザ区の非武装化など5点が挙げられている。同時に、戦闘地以外でのパレスチナ人への人道支援を実施することが決定されたという。

約22か月に及ぶ戦闘で、イスラエル軍は現在、ガザ地区の約75%を占領している。残りの25%はハマスが潜伏して地域だけに、戦闘が今後激化することが予想される一方、イスラエルの人質が危険にさらされる。

現地の情報によると、イスラエル軍のエジャル・ザミール軍参謀総長は政府によるガザ地区の完全占領計画について疑念を表明し、ガザ地区の残りの地区を封鎖し、テロ組織ハマスとイスラム聖戦の残存戦闘員に対する襲撃と空爆を実施する案を提案していたという。ただし、同案は軍への負担を軽減するが、人質と民間人へのリスクは変わらない。

一方、カッツ国防相は6日、「政治家が決定を下した以上、軍はそれを断固たる決意とプロ意識を持って実行しなければならない。政府の決定に従うことが出来ないのならば辞任しなければならない」と主張していた。ネタニヤフ首相と軍指導部でガザ区の今後の軍事作戦で意見の違いがあったことが明らかになった。

なお、国際社会からだけではなく、イスラエルの野党からもネタニヤフ首相のガザ完全占領案については批判の声が出ている。野党指導者ヤイル・ラピド氏は、「非常に悪い考えだ」と批判、「イスラエルは沿岸地域での戦闘をエスカレートさせることで高い代償を払うことになる」と警告を発している、といった具合だ。

ちなみに、ヨルダン川西岸におけるイスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力が激化。一方、ヨルダン政府筋によると、ガザ地区へ向かっていたヨルダンのトラック30台からなる救援物資輸送車列がイスラエル人入植者に襲撃されたという。

パレスチナ自治区ガザを実質的に支配してきたイスラム過激派テロ組織「ハマス」が2023年10月7日、イスラエル領に侵入し、1200人以上のユダヤ人を殺害し、250人余りを人質にした奇襲テロ事件後、イスラエル軍は「ハマス撲滅」の報復攻撃をしてきた。パレスチナ自治区ガザ当局の発表によると、8月5日現在、ガザ区で既に61000人が戦争や飢餓で犠牲となったという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年8月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。