石破降ろしよりトランプ批判が国際的な重要問題

優先順位をはき違えた政局

揺れる石破首相の退陣問題と、蛇行を続けている日米関税交渉の報道で連日、メディアは埋め尽くされています。日本の政局の舞台裏、トランプ政権の舞台裏が同時進行で見えてきました。どちらも重要であるにしても、重要度からいうと、世界を攪乱するトランプ政権への対応が格段に上です。

石破氏の退陣問題では、「粘る首相、うず巻く退陣論。裏金棚上げの反石破派」(朝日新聞)、「首相包囲網、周到に。退陣要求側『シナリオ通り』」(読売新聞)と、両紙の色調にかなりの開きがあります。朝日は裏金議員らによる石破降しの内情に迫っているに対し、読売はあっさりと「シナリオ通りの流れ」です。

両院議員総会 石破首相インスタグラムより

社説対決・朝日対読売

読売新聞の社説は「石破首相は退陣する意向を固め、近く表明する方向で調整している」(7/24)と一面トップで書き、号外まで発行したので、早く退陣してくれないと困る。ですから退陣が迫っているようなニュアンスを出しています。8月9日の社説は「首相が進退を決する以外に事態を収拾する手はあるまい」、「両院議員総会では退陣を求める声が相次いだ」、「党内には早期に退陣を表明するとの見方も出ている」、「党勢の低落に歯止めをかけるにはまず首相が進退を決することだ」と、数回も進退を促す内容です。

対する朝日新聞社説は「石破首相にとどまらず、自民党全体が国民の信を失っているという自覚はあるのか。表紙を替えても党の体質や政策が変わらない限り信頼回復は望めない」と、石破退陣が魔女狩りで終わらないよう注意を喚起しています。さらに「非主流派になった旧茂木派、旧安倍派、麻生派、さらに裏金議員の萩生田、松野、西村、世耕氏らが強硬な首相交代派だ」と批判しています。読売とは違う論調です。

党改革の青写真がない権力闘争

日経新聞の社説も、権力闘争めいてきた首相退陣論に警鐘をならしています。「退陣を訴える議員に注文したい。党の顔を入れ替えただけでは支持を回復できない。政治とカネの抜本的改革をはじめ、党改革の青写真を示す必要があろう」と指摘しています。石破氏を降ろしてから、誰が、誰(どの党)とどうするつもりなのかが肝心な課題です。日経、朝日の論調は正論だと思います。

トランプ関税と石破退陣を巡る政局は絡んでいます。米国に頼りすぎない経済構造への転換、安全保障政策の強化に日本は迫られています。対米問題への対応こそが日本の将来を左右します。石破氏を降ろしたとしても、その後、日本は国際社会の中でどのような立ち位置で生き延びていくのか、どのような国際連携を模索するのか議論が政界からは全く聞かれません。

与野党からトランプ批判の声なし

関税合意文書がなく、米国の発表が蛇行を続け、抜け落ちている部分、言い間違い、その訂正が続いています。政権にプロフェッショナル(専門家)がおらず、忠誠心と政治的意図だけは強く持った閣僚で構成されています。立憲民主党の野田代表は「合意内容を拡大解釈して、日本がぼられ続けるのでないか」と、石破首相に詰め寄りました。国民民主党の玉木代表は「合意文書を作らずにきたつけが噴出している。(内閣)不信任にも値する事態だ」と批判しました。

これらの野党は批判する相手を完全に間違えています。トランプ大統領は独裁者であり、独善的であり「議会を無視して議会の証人を得ず意向を押し付ける」、「戦後築かれてきた自由貿易体制を破壊している」、「中央銀行に押しかけて、パウェル議長に圧力をかける」、「労働統計が気にいらないといって担当局長を首にした」「関税政策を政治的道具に使っている」などの問題があります。

野党は米国に調査団でも出して、トランプ政権の実態を探ったらどうなのでしょう。対米交渉の当事者である石破政権は、トランプ批判を口にしにくいでしょう。交渉当事者ではない与党議員は声を大にして、トランプ氏の政策がいかに世界を危うくしているか声をだすべきでしょう。

外交政策は国内情勢に左右されます。米国は自身の統治に失敗し、そのつけを外国政策に廻しているとの批判が聞かれます。米国は最も経済的に豊かな国であるはずなのに、上位1%の富裕層が所得と富を独占し、貧しい中間層、低所得層の不満が鬱積しています。米国の内政の失敗が虚構な外交政策、関税政策を招いている。石破降ろしに懸命になるエネルギーをトランプ批判に回すべきなのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。