「お客様は神様」ではなくなった日本企業の顧客対応

SNSにも投稿しましたが、シンガポール行きのANAに搭乗した際、離陸前の注意事項の説明でスクリーンに写真のような文言が表示されていました。

「渡航に影響を及ぼした場合、損害賠償を請求いたします」という強い表現です。

以前同じボーイング787型のトイレに異物が流されて機体トラブルを起こし、運航スケジュールに支障をきたしたことが何度かあったようで、再発防止のために注意喚起していると思われます。

トイレだけではありません。航空機の機内では気に入ったCAさんを動画撮影してアップする乗客がトラブルとなったり、座席の変更を強要して揉めたりと非常識な乗客が増えています。

航空会社のファーストクラスやビジネスクラスを利用する客には特権意識を持つ勘違い客も多く、以前は理不尽な要求に乗務員が辛抱強く対応していました。そんな「お客様は神様」という対応が変わってきたのです。

現場で働く社員の労働環境を守るために航空会社が「損害賠償」という言葉を使って毅然とした態度を見せるのはとても良いことです。

同様の動きはコンビニエンスストアやスーパーでも見られます。近所のお店ではカスタマーハラスメントガイドラインのような説明を店内に掲示しています。

店員に対して法外な要求をしたり、大声で威嚇や暴力を振るうなどの行為を事前に抑止するのが目的です。

また、万引きなどの犯罪行為も即刻警察に通報することを明確にアナウンスしています。

最近は防犯カメラがあちこちに設置されており、違法行為や犯罪行為が動画で証拠として残るようになりました。以前のように曖昧にごまかすことができなくなっています。

「素人警察」がトラブル動画をSNSにアップして「公開処刑」するのも目立ちます。過剰な監視によって息苦しい社会になるのも困ります。しかし、サービスを利用する側はお金を払う客だから何をしても良いという態度が許されないことを知るべきです。

これから日本社会に外国人がさらに増えれば彼らとの習慣や文化の違いから、さらに顧客とのトラブルが増える事も予想されます。

スーパーのレジの行列に割り込みをしたり、飛行機の搭乗の順番を守らないといった行為は、習慣や文化の違いから生まれている側面もあります。

日本の文化や風習を理解してもらうように努めるとともに、自国の異なる価値観を強引に持ち込もうとする人たちに対しては毅然とした対応をしていく必要があります。

いずれにしても顧客の要求に何でも対応しようとする「お客様は神様」の時代はもう終わりました。

利用者が商品やサービスを提供する企業を選ぶだけではなく、企業側も自分たちが求める優良な顧客だけを囲い込み、不利益な顧客を選別していく環境に変わりました。

利用者は過剰なお客様意識を捨てて、フラットな関係を意識して行動すべきでしょう。

metamorworks/iStock


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年8月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。