北朝鮮の金正恩総書記は2024年6月、ロシアのプーチン大統領と会談し、安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結する一方、約12000人の兵士をロシア軍支援のためウクライナに派遣するなど、露朝両国は軍事同盟の関係を深めている。この動向は単に朝鮮半島だけではなく、日本の安全問題にも直結する深刻な問題を提示している。北に先端兵器で重武装した‘ミニ・ロシア‘が出現する日が近いことを意味するのだ。

新型対空ミサイルの発射 2025年8月23日 KCNAから
ロシアと北朝鮮の軍事協定後、北朝鮮の軍事力は著しく強化されてきた。北朝鮮側がプーチン大統領の要請を受けて弾薬や大砲などの武器供給のほか、兵士も派遣しているとすれば、北側はロシアから何らかの代価を得ていると考えて当然だろう。具体的には、ロシアから核関連、軍事衛星、原子力潜水艦関連の技術支援を得ているはずだ。
ドイツ民間ニュース専門局nTVによると、ウクライナでの戦闘で使われている北朝鮮製ミサイルが突然、より正確に命中するようになったという。北朝鮮の部隊がウクライナに派遣された当初、西側軍事専門家は北製ミサイルの性能の悪さを嘲笑していたが、今年に入ってミサイルの命中度が劇的に向上したという。
西側軍事専門家は「北側のミサイル専門家がロシア軍からフィールドバックを受けていることは間違いないだろう。北製ミサイルにロシア製の優れたナビゲーションシステムまたは改良されたステアリング機構が装備された可能性が考えられる。また、ロシアが制御システム用の改良されたコンポーネントを北側に提供したこともあり得る」と分析している。
北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は24日、2種類の新型対空ミサイルの性能を確認するための試射が23日に行われ、金正恩総書記が視察したと伝えた。無人攻撃機などの目標を撃破する能力が確認されたとしている。
KCNAは新型対空ミサイルの詳細や発射場所については言及していない。ミサイルの「運用と対応モード」は「独自の特殊技術に基づく」、「今回の発射は、2種類のミサイルの技術的特性が様々な空中目標の破壊に非常に適していることを実証した」とだけ報じている。KCNAが公開した写真には、対空ミサイルが空に打ち上げられる様子が写っている。「金委員長は、次期党大会までに国防部門が達成しなければならない重要な課題について語った」という。
北朝鮮はロシアを通じて弾道ミサイルや対空ミサイルの性能を急速に向上させていることが伺えるわけだ。それだけではない。ワシントンに拠点を置く戦略国際問題研究所(CSIS)は20日、中国国境から約27キロ離れた場所に「未申告」のシンプンドンミサイル基地があると報告した。この基地には、核兵器搭載可能な大陸間弾道ミサイル6発と発射台が設置されている可能性がある。CSISは、これらの兵器は「東アジアおよび米国本土に対する潜在的な核の脅威をもたらす」と付け加えている。
また、ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長3月33日の定例理事会の冒頭演説の中で、北朝鮮の核関連施設の近況について報告している。曰く「寧辺(ヨンビョン)の5MW(e)原子炉が約60日間の停止期間を経て、2024年10月中旬に運転を再開したことを確認した。この停止期間は、原子炉の燃料交換を行い、第7次運転サイクルを開始するためと考えられる。また、放射化学研究所に蒸気を供給する施設の稼働を含め、新たな再処理キャンペーンの準備を示す強い兆候が観察された」という。
IAEAの情報によると、「北朝鮮は2025年1月下旬、金正恩総書記が核物質生産基地および核兵器研究所を視察する写真を公開している。写真に写る遠心分離機のカスケードや施設の構造は、遠心分離濃縮施設の配置や寧辺のウラン濃縮工場の構造と一致する。北朝鮮が2024年9月に未申告のカンソン(江先)施設の濃縮施設の写真を公開したことに続くものだ。江先と寧辺における未申告の濃縮施設の存在は、金総書記が兵器級核物質の生産計画を超過達成するよう指示したことを裏付けている。江先および寧辺のウラン濃縮工場が稼働を継続している兆候があり、また寧辺の軽水炉(LWR)も運転を続けている兆候がある。LWRの隣接地では、支援インフラの追加が確認された」という。
朝鮮人民軍の軍事能力の向上を受け、金正恩総書記は自信を深めているはずだ。ロシアとウクライナ間の戦争が長期化し、北朝鮮の兵士が実戦を体験する機会を得ることから、兵士たちの戦闘力も強化される。すなわち、ウクライナ戦争の「前」と「後」では、北朝鮮の軍事能力は急速にアップしていると受け取って間違いないだろう。
独裁者・金正恩総書記が自国の誇る軍事力を実戦の場で試したいという誘惑に駆り立てられるとしても不思議ではない。朝鮮半島の軍事情勢は韓国、日本を含むアジア全域にとって非常に危険な水域に入ってきている。

プーチン大統領と金正恩総書記 2024年6月 クレムリンHPより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年8月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






