黒坂岳央です。
近年、あちこちで「人生は思い出づくり。お金をためすぎて死ぬな」というメッセージを掲げたDIE WITH ZEROを説く人を見る。特に資産運用を指南するブロガー、YouTuberの間ではこの意見が顕著であり、「お金を増やすことだけでなく、使うことも考えよう」といった提案を見ることが多い。
これ自体は確かに正しいし、自分は40代になってからお金を貯めるのではなく取り崩して消費や思い出づくりに使っている。
だが現在進行系でDIE WITH ZEROをして感じることは、この思想は基本的に「お金に余裕がある人ができる人生戦略」だと思うのだ。「自分はお金持ちだ」などと矮小な承認欲求を爆発させるほど若いつもりはないし、別に大富豪でもない。
本稿はあくまで人間心理を考察し、幸福な人生を追求する目的を持って書かれた。

petesphotography/iStock
蓄財は確実だが、消費は不確実
ほとんどの人が頭ではわかっていても、DIE WITH ZEROの実践が非常に難しいのは理由が2つある。
1つ目は貯金の安心感は、旅行などの消費の楽しみを上回ることだ。残高が積み上がることで得られる精神的な安心感は確実なリターンでそれ自体が心地良い。蓄財にハマる人の中には「銀行の預金残高やマネーフォワードの資産を眺めることが快感」になっている人もいる。
その一方で消費や体験は不確実性が高い。たとえば旅行に行っても必ずしも楽しいとは限らないし、値段に見合う感動を得られる保証はない。
筆者は先日、北海道のトマムでゴンドラで山頂にいって雲海を見てきた。だがこの雲海は直近1週間の内で見られたのはたったの2回、しかも当日は「発生率30%」だった。
雲海を見るために2日間宿泊したことで、かなりの巨費を投じたのでかなりの投資行動と言える(運良く2日連続で見ることができた)。さらに年齢を重ねれば感受性は鈍化し、もはや安価な体験では心を動かされにくくなる。
この現実を踏まえれば、ある程度の資産を築いていないと「楽しい経験にリスクを取る」という選択は現実的に難しい。リスクを取ってお金を使うことで得られるリターンよりも、増えていく資産を眺めて悦に入る喜びをどうしても選びがちだ。
DIE WITH ZEROは実践することが非常に難しいのだ。
長生きリスクの難しさ
2つ目に「ゼロで死ぬ」は非常にハードルが高い。
人生には様々なリスクがあるが、最も計算が難しいのは「死亡リスク」と思っている。キャリアを追いかけ、たくさんの資産を積み上げて「さあ、これから使うぞ」と思っている矢先に病気や事故で若くして亡くなることがある。その逆に自分は早死にすると思っていたが、想定外に長生きをしてしまうことだってある。
年を取れば誰もがいずれは働くことができなくなる。そんな時、最も頼りになるのはやっぱりお金である。一応、そのために年金があるが今の若い世代は、年金をあてにしている人は少ないのではないだろうか。だから確実に来る老化に備えて、計画的にしっかり蓄財をするということは最優先にされるのだ。
目先の消費をすることで、この最優先事項がぐらつくという感覚があるため、よほど余剰資金がある人でなければゼロで死ぬことは非常に難しい。
老後より今が大事
世の中には「老後の備えを第一に考えよ」と説く人がいるが、筆者はお金がなく若い頃からこの考え方に否定的だった。実際、当時は半年後どころか1ヶ月後の家賃さえ不安で仕方がない状況にあったが、老後については「どうなってもいい。それよりも若い時期を充実させたい」と思っていたのである。
理由は単純だ。若い時間の方がはるかに価値が高いからだ。もし若いときに満足できないのなら、年を取ってから急に輝かせようなどと思わない方がいい。老後の不安に縛られて若さを消耗するより、多少無理をしてでも若い時間を充実させた方がよいと考えていた。
今ではこの考えは100%完全に正しいとは思わない。やっぱり年を取ってからの人生も考えるものである。だが「若さを犠牲にしてまで老後のために生きるべきではない」という点についていえば、今でも正しいと確信している。
DIE WITH ZEROのコツ
ここまで「DIE WITH ZEROはよほどお金に余裕がある人でないと難しい」という話を論理的に説いてきた。そこでここからは、「ではどうすれば普通の人もDIE WITH ZEROを実践できるか?」ということについて、筆者自身の経験を共有したい。
おすすめは毎月の給与や資産運用のリターンから「消費枠」を確保しておくことである。筆者は家族旅行は前年の収入によって予算を決めている。仕事を頑張って収入が増えたら、旅行の質や量も充実するような設計だ。
別に旅行に限らなくてもいい。最新のスマホやパソコン、高価な食事など自分の幸福度に直結するご褒美に反映すればいい。このようにすれば蓄財と消費を両取りできる。
もう1つは仕事を充実させることだ。人は人生の大部分の時間を仕事をして過ごす。つまり、仕事の充実度は人生の充実度に直結する。筆者は独立してからは仕事と遊びの境界線が完全に消えた。今でもゲームが好きで年間10本以上買ってクリアするまでプレーしているが、ゲームを攻略する時と仕事で結果を出せた時と同じような爽快感がある。
仕事がうまくいっているときは自主的にゲームを止めて仕事をする。実際、仕事の方がゲームより楽しいことはよくある。仕事が楽しくなれば自然に毎日が充実する。
「いや、その仕事を充実させることが難しいのではないか」という反論があるだろう。それ自体はごもっともだ。そこで会社員にとっては副業に夢を託す事を勧めたい。
筆者は会社員をしながら記事執筆をしていたことがある。1記事あたりの報酬はバイト負けするくらいだが、それでも楽しかったので報酬のことは全然気にならず、趣味のようにやっていた。今ではそれが仕事になった。
本業を今すぐ充実させるのは難しいが、まずは土日の時間で面白そうな仕事をするといいかもしれない(筆者は副業コンサルのような仕事はしていないのでポジショントークではない)。
◇
DIE WITH ZEROを額面通りに実践できるのは余裕資産を持つ人々だけだ。しかし普通の人でも工夫すればゼロは無理でも、半分くらいはじっせんできるはずだ。
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