阪神の劇的優勝のニュースも石破首相辞任報道で影が薄くなったような気がします。各メディアは相当の力を入れて本件を報じているようですが、私はほとんど読んでいません。読む必要がないからであります。理由は経緯はほぼ明白の中で辞めたという事実以外には何もないからで辞任報道からはそれ以上の切り口は見えないと考えました。
辞める伏線はいろいろありました。石破氏の責任を問う声が党内からより強くなり、逢沢一郎選挙管理院長の奇妙なルール設定が党内分裂を明白にする流れを作ってしまったこと、党四役が先の参議院選敗北を受けて退陣を発表したこと、さらには麻生氏が総裁選前倒しを支持し、菅氏、小泉氏が石破氏に8日の投票に対する懸念を示したことが決め手となりました。特に菅氏、小泉氏は石破氏の身内ですのでその意見の重みはあったと思います。
石破首相 首相官邸HPより
石破氏は参議院選直後、まだやらねばならないことがあり、政治停滞は許されないと述べていましたが、実際には2か月近くもの期間、党内のみならず、野党や国民まで巻き込んだ論争になっていました。つまり酷く、そして長い政治停滞を引き起こしてしまったわけであり、本人の気持ちとは裏腹になってしまった、それに尽きると思います。
よって8日に予定されていた「前倒し総裁選実施の決議」をする前に辞任の判断を下したのはギリギリのタイミングであったとも言えます。また都合よく、アメリカの関税問題で最も気になっていた「大統領令の署名」がなされたことで一応の「お役御免」の仕切りとなったともいえそうです。関税問題についてはこの署名で片付いたわけではなく、むしろ、問題点が浮き彫りになってしまったことで後々「なんでこんなディールを結んだのか?」という声が出る気はします。故に赤沢氏はここで降りるのが正解でしょう。赤沢氏のひたむきで真面目な性格は理解できるのですが、10回もワシントンに行くやり方は欧米の人からすれば全く理解不能だったと思います。
さて、次の首相選びですが、自民党以外の人の可能性も含め、大局的にどのような視点から戦略を練るか、ここに尽きると思います。候補者そのものより自民党ないし野党が今後、どういう立場で存在していきたいのかをまずは考えるべきかと思います。私が選べるわけではないのですが、候補者の顔を思い浮かべるのではなく、保守と中道、内政と外交、財政と経済、社会保障、セキュリティといった観点で日本が何処を、どのようにして目指すのか、そのポリシーをまずは確認したいところです。
次いで、総裁選の各候補者についてはその実行力の能力を見たいと思います。菅、岸田、石破各氏は調整型の性格で野党などとの相性は悪くはなかったと思いますが、安倍氏や小泉(父)氏ほどのインパクトがあるリーダーシップは取れませんでした。あくまでもそれは性格の問題で首相になったら突然その人が豹変するということはあまりないので候補者の性格や潜在手腕も重要な判断材料となるでしょう。
個人的には外交問題が好きな分野なのですが、石破氏の辞任は中国の失意になったかもしれません。日中関係が改善の流れだっただけにこれが途絶えるのか、関係改善が維持できるか気を揉んでいるでしょう。韓国も同様です。李大統領は石破氏と2度会っていると思いますが、雰囲気的にはウマが合いそうだったので、李氏も中国同様、事の成り行きを注視すると思います。
ではアメリカです。アメリカの政権は石破政権が短命に終わると政権発足時から読み込んでおり、その詳細な報告はワシントンに逐次送られているはずです。トランプ氏が石破氏の辞任を「知らない」と言ったそうですが、週末だったこととサプライズ感がなかったのかもしれません。日米外交を見ても石破氏になってからアメリカが日本に対して積極的な同盟関係を含む関与の姿勢を示したとは思っていません。関税問題では盛り上がりましたが、あれはどの国でも同じでした。トランプ氏は「イシバは長くない」という分析報告を聞いていたはずでそれが頭にあったとは思います。言い換えれば日米関係は石破氏の時には何ら進展はなく、次の首相次第ということだと思います。
国内経済ですが、インフレ気味の現在の状況は30年間の眠りから覚めてようやくまともに機能し始めたと考えています。国民にとってはインフレは嫌かもしれませんが、給与水準の上昇、株価の上昇、更には預金金利だって増えるわけでダメダメばかりの話でもないと思います。政府にとっても財政面からはインフレはプラスです。
経済の本筋から言えばもう少し円高になり、輸入物価が下がってもよさそうです。輸出産業が厳しくなるじゃないか、とのご意見があると思いますが、日本は立派な内需主導型経済大国です。輸出企業も生産の現地化から為替のリスクヘッジまで様々な手を打っているので円が多少上がっても影響はある程度は抑えられますし、今の経済の流れはベクトルとしては問題ないと思います。
但し、落ちこぼれた人たちをどう救うかでありますが、リスキリングを政府主導で補助金を出しながら「大人の(再)教育 (Adult learning)」というコンセプトを日本に早く取り込むべきです。北米では普通にあって時代の変化に合わせて多くの人が新たなスキルを取得するために一生懸命勉強しているのです。日本はどうしても企業が従業員を抱え込むのでリスキリングがなかなか目覚めないのが特徴だともいえそうです。
財政は健全派と積極財政派があるのは承知しています。この議論も絶対正解はなく不毛に近いのですが、「ない袖は振れないこと」と極端な少子化が進む日本に於いて50年後、100年後を見据えた財政プランをどう立てるのか、目先の消費税や補助金の話をしている次元とはちょっと違うと思います。我々の世代はなんだかんだ言いながらもある程度は大丈夫なのです。それより30年後、50年後に生まれる子供たちの時代をどう育むのか、彼ら彼女らを幸せにできるのか、それぐらいの大きな気持ちをもって考えてもらいたいものです。
今回の総裁選び、ひいては首相が誰になるのか、少数与党がどう立ち回るのか、久々に緊張感をもって政治の行方を眺めることになりそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月8日の記事より転載させていただきました。