村上春樹風?大藪春彦風?推しの作家の文体で遊んでみる!

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みんな、推しの作家っているよね?

いや、「推し」って言葉を使うのもどうかと思うんだけど、最近はもう作家も推すものらしい。母親に「村上春樹が推しなの」って言ったら「アイドルじゃあるまいし」って呆れられた。でも、考えてみれば文豪だって昔からアイドル的な扱いを受けてきたわけで。太宰とか三島とか、完全にビジュアル系じゃん。知らんけど。

で、何の話だっけ。そう、文体の話。

先週、古本屋で『ノルウェイの森』の初版本を見つけた。3500円。高いのか安いのかわからないけど、とりあえず買った。家に帰って開いてみたら、前の持ち主が赤ペンで文体分析してるの。「ここの『やれやれ』が効いてる」とか「固有名詞の使い方が絶妙」とか。正直、ちょっと引いた。でも、その気持ちもわかる。

だって、好きな作家の文章って、なんか真似したくなるじゃん。

文体を真似るって、実はめちゃくちゃ難しい。そもそも文体って何なんだろう。

句読点の打ち方? 文末の処理? 比喩の選び方? 全部正解で、全部不正解。昔、創作サークルの先輩が「文体は呼吸だ」って言ってた。当時は「は?」って思ったけど、今ならわかる。呼吸のリズムが文章に出るんだ。

村上春樹は長距離ランナーだから、あの一定のリズムで淡々と続く文体になる。大藪春彦は元傭兵(嘘)だから、短く鋭い文章で畳みかける。

ちなみに私の場合、〆切前は過呼吸気味になるから、文章も乱れる。今もそう。もう午前3時だし。真似から始まる創作もある、と思いたい。

実際、プロの作家だって最初は誰かの真似から始めてる。村上龍は三島由紀夫の影響受けまくってたし、よしもとばななは村上春樹フォロワーだった時期がある(本人は否定するだろうけど)。真似して、真似して、真似しきれなくなったところに個性が生まれる。

あ、そういえば大学の時、卒論で夏目漱石の文体分析やったんだけど、教授に「君の文章、だんだん漱石っぽくなってきたね」って言われた。褒められたのか心配されたのか、今でもわからない。

でも、真似するのも限界がある。結局、文体って作家の人生そのものなんだよな。

明日また古本屋行こう。今度は大藪春彦の初版本でも探すか。3500円以下なら買う。それ以上なら、立ち読みで文体だけ盗んでくる。

著作権? 知らん。文体に著作権はないはずだ。
……あるのかな。調べるのめんどくさい。

<本日のケーススタディ>
※ 著作権に抵触しないように私の著書からの引用になります。

ある政治家の選挙区は農村部でした。

農繁期になると、農家の人々は田植えや稲刈りなどの作業に追われています。そんな時期に選挙が重なることがあります。

選挙カーがやってくると、候補者は農作業中の人々に「調子はどうですか?」と声をかけます。そして、ズボンをたくし上げ、革靴のまま田んぼに入っていくのです。

農家の人々は驚きます。 「先生、靴が汚れますから、私たちがそちらへ行きます」

しかし候補者は答えます。 「今回の選挙は厳しいんです。現在2番手で、皆さまの力が必要です」 そう言いながら、泥だらけの手を握って回ります。

農家の人々は、この姿に感激します。

実は、選挙カーには替えの靴とズボンが用意されています。候補者は場所を変えるたびに着替え、選挙期間中、同じパフォーマンスを何度も繰り返すのです。

村上春樹風だとこうなる。

村上春樹風

選挙カーが来たのは午後二時四十五分だった。僕は田んぼで苗箱を運んでいた。候補者がリーガルの革靴のまま水田に入ってきた。

「調子はどうですか」 僕は黙っていた。 「二番手なんです」と彼は言った。

握手した。彼の手は、冷蔵庫から出したアサヒスーパードライみたいに湿っていた。

彼は車に戻った。選挙カーの座席にはエナメルの替え靴と替えのズボンが置いてあった。彼は靴を履き替えた。ズボンも替えた。まるで安っぽい手品みたいだった。

やれやれ。

十五分後、彼は隣の集落で同じことをするだろう。僕はセブンイレブンのおにぎりを食べた。FMからビリー・ジョエルの「Honesty」が流れていた。

民主主義って何だろう。泥だらけの靴を脱いで、新しい靴を履く。それを何度も繰り返す。そういうものかもしれない。

モミまきは続いた。選挙も続いた。田んぼの水面に小さな波紋が広がっては消えた。

大藪春彦風だとこうなる。

大藪春彦風

男は選挙カーから降りた。午後二時四十五分。農村の票を掴むための芝居が始まる。

リーガルの革靴で水田に入る。泥が跳ねた。スーツは三越で買った20万の品だ。どうせ経費で落とす。ズボンをたくし上げる仕草も計算済みだ。

「調子はどうですか」 農民たちの顔に驚きが広がった。思惑通りだ。

男の握力は80キロを超える。毎朝の握力トレーニングの成果だ。農民の手を握る。相手の顔が歪んだ。

「二番手なんです」と男は嘘をついた。実際はダントツのトップ。だが同情を買う必要がある。

選挙カーに戻った。後部座席にエナメルの替え靴。イタリア製、15万円。替えのアルマーニのズボンも控えている。運転手が濡れタオルを差し出した。

「次は東地区です」 「同じやり方でいく」

男は冷笑した。農民など簡単だ。
靴を汚せば感動する。握手すれば忠誠を誓う。愚民どもが。

この茶番を一日5回。選挙期間中は毎日。
それで議席は確実だ。年収3000万と利権が手に入る。

男の本当の仕事は別にある。防衛族として米国の武器を買う。
リベートは年間2億。スイスの口座に振り込まれる。

農民どもは知らない。自分たちの一票が、この国をさらに腐らせることを。

男は次の田んぼに向かった。同じ芝居を繰り返すために。民主主義という名の茶番劇。それが男の戦場だった。

評判がよかったら続編を書きます。

悪くてもいいんですけどね、書くの面倒だからww

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)