『経営目線で考えろ』が成長を妨げる理由

経営コンサルタントの鍵政達也です。

「もっと経営目線で考えろ」

社長や経営幹部がよく使うフレーズです。しかしこの一言が、現場を萎縮させ、組織の成長を妨げることがあります。

任せたはずなのに「ちゃぶ台返し」が続く。そんな経営スタイルは、なぜ起こるのでしょうか。任せ方を誤る社長の共通点と、組織を動かすために本当に必要な視点を考えます。

Tony Studio/iStock

「経営目線で考えろ」が招く誤解

「経営目線」とは本来、短期的・一面的な視点だけでなく、全体最適や収益性を意識する考え方を指します。しかし現場にとっては抽象的で、何をどう変えるべきか判断できない場合が多いのです。

社長「もっと経営目線で考えろ」
部下「考えてはいるけど…つまり社長が考えている通りに動け、という意味?」

こう受け止められると、部下は無難な判断しかしなくなります。結果、社長の期待する「主体性」は育たず、むしろ指示待ちが増えてしまうのです。

任せたつもりが「ちゃぶ台返し」になる構図

よくあるのは「任せているつもり」なのに、最後の段階で大幅な修正を加えるケースです。

企画を考えさせたのに、「やっぱりこうした方がいい」と根本から書き換えてしまう。これは部下から見れば「どうせ最後に社長の意見になる」と映り、挑戦意欲を奪います。

なぜこんなことが起きるのか。理由は大きく3つです。

  1. 成功体験の呪縛:社長自身がプレーヤーとして優秀だった過去の成功パターンに引きずられている
  2. 責任感からの口出し:「最終的な成果が見えない」と思うと、細部にまで干渉したくなる
  3. 基準の不在:ゴールや判断基準が明文化されておらず、後から「やっぱり違う」と言わざるを得なくなる

「経営目線」がすれ違う瞬間

現場の社員が考える「経営目線」と、社長のそれはしばしばズレています。

社員にとっては「コストを抑える」「効率を上げる」程度の理解で止まることも多いですが、社長は「経営方針に合っているか、利益構造全体を見て持続的に成長できるか」などといった広い意味で使っています。

この認識差を埋めないまま「経営目線で考えろ」と言えば、結局は社長の頭の中にしか答えがない状態になります。部下にとっては「正解合わせ」でしかなくなり、自律的な判断が育ちません。

任せ方を誤る社長の共通点

私が関わってきた中小企業の現場では、次のような共通点がありました。

  • ゴールが曖昧:「利益を上げろ」だけでは、何を優先すべきか判断できない。
  • 制約条件が不明確:「原価率はここまで」「投資はこの範囲」といった線引きがない
  • 途中経過に過干渉:成果よりもやり方に細かく口を出す
  • 失敗への許容が低い:小さなミスも許さず、「もう自分でやる」と奪ってしまう

これらが重なると、部下は「どうせ社長がやる」と動かなくなり、社長は「人が育たない」と不満を募らせるという悪循環に陥ります。

KPI設計こそ「任せる仕組み」

「任せる」とは、単に裁量を与えることではありません。得たい成果(KGI=最終目標)を明確にし、それに至るプロセスをKPI(重要業績評価指標)で仕組み化することが欠かせません。

例えば「新規顧客を20件獲得する」という成果目標を掲げたなら、

  • 月間の商談件数
  • 提案書提出数
  • ウェブ経由の問い合わせ数

といったKPIを設定し、進捗を測定する仕組みを整える。これにより「成果を出すまでのプロセス」が可視化され、途中で不安になって口を出す必要が減ります。 

マネジメントの本質は、この設計にあります。

  • ゴールを示す(KGI)
  • プロセスを数値化する(KPI)
  • モニタリングの仕組みを作る

この三点を設計することが、社長や幹部の仕事であり、それができて初めて「安心して任せる」ことが可能になるのです。

任せた後に必要な関わり方

「丸投げ」も失敗のもとです。任せるとは放置ではなく、適度な関与が必要です。

  • 定期レビュー:週1回など進捗共有の場を設ける。
  • 質問で支援:「どんな壁がある?」「次に打つ手は?」と意見や考えを引き出す姿勢
  • 心理的安全性:間違っても叱責よりも対話を優先し、安心して挑戦できる空気をつくる

さらにKPIを設定すれば、それを定例会議やダッシュボードで確認する仕組みを持てます。これによって「今どこでつまずいているか」「改善すべき打ち手はどこか」を社長が一方的に指摘するのではなく、数字をもとに一緒に考える対話が可能になります。

これができれば「プロセスに過干渉してしまう」状態から抜け出し、社長は伴走者としての役割にシフトできます。

おわりに

「経営目線で考えろ」という言葉自体は悪くありません。しかし、それを投げかけるだけでは、社長が期待する「自律した組織」は生まれません。

大切なのは、得たい成果とそこに至るプロセスを「仕組み化」して任せること。KPIを設計し、数字で進捗を確認することで、経営者は余計な口出しをせずとも安心して委任できます。

マネジメントとは「やる気を出させること」ではなく、「成果を出せる仕組みをつくること」です。

その仕組みを整えることが、社長自身を「現場に口を出す人」から「未来を描く人」へと解放する第一歩になるのです。

組織を動かす鍵は、言葉ではなく仕組みと関わり方。

「経営目線で考えろ」の一言を、成長を妨げる呪文にするか、未来を拓く合言葉にするか。その分かれ道は、社長自身の任せ方にあります。