自民党HPより
自民党総裁選の候補者の所見発表や、日本記者クラブ主催の公開討論会があり、低調な候補者の発言、候補者を追及する記者の甘い質問を見て、これでは世界、特に米国に舐められ、いいなりにされるに違いないと思いました。
「今回の総裁選は党の存亡がかかった重要な機会」、「党の解党的出直しが目標になっている」など、新聞は社説では主張しているのに、記者クラブ主催の討論会では、候補者の振る舞い方、意気込みの有無など舞台裏の話も多く、失望しました。政策論では、物価対策、消費税減税、賃上げなど目先の課題に集中していました。世界が流動化するなかで、日本の立ち位置をどう定めるかという最重要なテーマは取り上げられませんでした。
政治記者たちは、政治論、政策論より、候補者の立ち居振る舞い、意気込みなど、テレビのワイドショー向きのテーマ、政界の舞台裏の話の取材に熱心です。小泉氏が質疑の時に手元の資料にしばしば目を落とす光景に対し、ベテラン記者は「なぜ紙を何度も見るのか」と、しつこく追及していました。自分に質問が集中し、失言させようとしていることを警戒したのでしょう。これでは質問時間のムダ遣いです。
紙は見てよい。中身が問題
問題は紙を見ることより、紙に書かれた政策の内容の是非にある。トランプ大統領は口を開けば、思い付きの乱暴な大口をたたく。そのトランプも機微に触れる場合などは、スピーチ・テレプロンプター(演説のテキストが映る透明なパネル。聴衆からは見えない)を使っています。
高市氏は「私は奈良の女だ。奈良公園に住んでいる鹿を足で蹴り上げる人(外国人)がいる。外国人と思いやりをもって生きるにはどうすればいいか」と、述べました。外国人の移民を制限したいというのが本音なのでしょう。「鹿を足で蹴り上げる外国人を高市氏は自分で見たのか」、「何件あったのか」などの批判が聞かれました。「移民問題に結びつけたいのなら、感情的な挑発は避け、まず正確なデータを示すべきだ」との声があります。
それよりもっと大きな問題は、戦後の世界秩序を破壊していくトランプ大統領と日本の距離感をどう考えるかです。候補者からこの問題の発言はなかったし、記者らからも質問は出ませんでした。
米国に物言わない政治家
現役時代に米国と何度も交渉した経験を持つ外務省OBがこういっていました。「米国はずけずけ自国本位で物を言う。言われっぱなしはいけない。黙っていてはいけない。反対なら反対というべきだ」と。トランプ氏の剣幕に押されて日本は沈黙しすぎています。今回の所見表明、記者会見でも、各候補は米国に対して物を言うという姿勢を見せませんでした。
小泉氏は「できるだけトランプ氏と早期に会談を実現したい。過度に中国に依存した供給網を構築することのないようにする」と、述べるにとどめました。トランプ氏と会談を望むのは当選のことで、何を語りかけるのかが問題なのです。記者団もなぜそうした質問をしないのか。
茂木氏は「投資の拡大を起点として経済を拡大する」と、発言しました。日米間で合意した対米80兆円の投資の対象は、トランプ氏が望むように決めるとする強引な態度です。巨額の対米投資で日本の産業が空洞化することはないのかが問題です。さらに日鉄のUSスチールに対する投資では、高炉が休止している工場の稼働停止案を米側が拒否しました。このようなことが続くと、日本の対米投資の将来が懸念され、問題にすべきです。
金融正常化には100年も
高市氏は「日本の国債の9割以上を国内投資家が保有しており、世界で最も安定した債券だ」と、述べました。その実態といえば、国債発行残高の半分が日銀保有です。高市氏は安倍派に所属していました。その安倍元首相によるアベノミクス(異次元金融緩和)は金融市場の機能を低下させてしまいました。政策金利を思うように上げられない。
大震災、首都直下型地震、富士山噴火のひとつでもあれば、国債は暴落し、金利は暴騰するでしょう。国債の他に上場投資信託(ETF)も70兆円(時価)に達し、それを相場の下落を招かないように徐々に売却していくと、「100年かかる」(植田総裁)。国債も同じでしょう。「世界で最も安定した債券だ」などと、よくいえたものです。
高市氏がこだわってきた靖国神社参拝問題では、「最後は適宜適切に判断しなければならない。外交問題にされるべきことではない」と、主張しました。「適宜適切に判断」は、何も語っていないのに等しい。「外交問題にされるべきではない」は、戦争犯罪人のA級戦犯を合祀したため、外交問題になったからです。「私は国のために命をささげた方に敬意を払うための環境作りに注力する」が本意なら、「私は戦没者の一般兵士を追悼する。靖国参拝ではA級戦犯は私の追悼の対象ではありません」と、発言する政治家がでてきてほしい。
本心を語らない総裁候補者、核心をつく発言をぶつけない記者団に失望しています。政治家も記者も、もっと成長しなければなりません。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote (2025年9月26日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。