ドイツ国防相「宇宙から中国・ロシアの脅威が増大」

ドイツのピストリウス国防相は25日、ベルリンで開催されたドイツ産業連盟(BDI)の宇宙会議(Weltraumkongress )で「宇宙におけるロシアと中国の脅威が増大している。ドイツ連邦軍のシステムは既に妨害攻撃の影響を受けている」と警告し、「ドイツの宇宙インフラの防衛目的のために数十億ユーロ規模の安全保障パッケージが必要となる」と述べた。

日本のF-15戦闘機とドイツのユーロファイターがアトランティック・イーグルスで初めて共同訓練を行った。上空で独空軍総監ノイマン空軍大将が航空幕僚長の森田雄博空将を出迎えた、ドイツ連邦空軍公式サイトから

ドイツ政府は2030年までに宇宙プロジェクトと宇宙安全保障アーキテクチャーに総額350億ユーロを投入する予定だ。ピストリウス国防相によると、「このプログラムの目標は、衛星群、地上局、宇宙への安全な打ち上げ能力、そして必要なサービスから構成された強靭な構造を構築することだ。防衛と実効性の両方を確保する包括的なパッケージだ」という。

また、ロシアと中国の脅威について、「彼らは衛星を妨害し、操作し、あるいは破壊することができる。宇宙には国境も大陸もない。ロシアと中国は我々の直接の隣国だ。将来の紛争はもはや地球上に限らず、宇宙軌道上でも公然と行われるだろう。ロシアと中国はすでに宇宙における重要な戦略的丘陵地帯を占拠している」と説明した。

ドイツ連邦軍のシステムはすでに妨害攻撃の影響を受けている。ピストリウス国防相は「現在、ドイツ連邦軍も使用している2基のインテルサット衛星(国際電気通信衛星機構によって打ち上げられた人工衛星)が、2基のロシア偵察衛星によって追跡されている。また、中国は宇宙システムを使って非常に機敏かつダイナミックな接近作戦を行っている」という。

中国とロシアの偵察衛星39機が常にドイツ上空を飛行している。ウクライナ攻撃以前から、ロシアによるViaSat衛星ネットワーク(米国通信会社ViaSat社が構築・運用する衛星通信ネットワーク)へのサイバー攻撃により、ドイツ国内の風力タービン約6,000基の制御が著しく制限された。ドイツは現在、自国で約80基の衛星だけだが、米国は1万基以上、中国は900基以上の衛星を運用している。

独国防相の報告を聞いても米国、ロシア、中国といった軍事大国が既に宇宙戦争の様相を深めていることが分かる。トランプ米大統領は5月20日、次世代のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を発表した。これまでのシステムでは対抗できなかった中国やロシアのミサイル戦力も、最先端技術を駆使して宇宙などから迎撃する野心的な構想だ。トランプ氏大統領は「ミサイルが世界の反対側や宇宙から発射されても、迎撃できるようになる」と豪語し、2029年1月の任期末までに運用を始めるという。

ちなみに、NASA(アメリカ航空宇宙局)は2030年までに月面に原子力発電所を建設し、将来の月面ミッションや基地建設のための電力供給に充てる計画だ。ロシアや中国と月の領土争いが始まっているわけだ。

なお、デンマークの首都コペンハーゲンでは22日、複数のドローン飛来で空港が一時閉鎖された。ノルウェ―のオスロでも同じようなことが起きた。デンマーク警察当局は25日、「ハイブリッド攻撃」である可能性を指摘した。西側の軍事専門家は「北欧でのドローン飛来の背後には、欧州の混乱を狙ったロシア側の挑発作戦の可能性が高い」と見ている。

欧州の領空で未確認のドローンが複数目撃されたことを受け、防衛システムの拡充を求める声が高まっている。欧州連合(EU)委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は先日、米国の「ゴールデンドーム」構想に倣って、「ドローンの壁」(Drone Wall)の建設を呼びかけている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。