ステマの効果があったようにも思えないコメントが並ぶニコニコ動画（編集部）
週刊文春が報じた小泉進次郎陣営による「ニコニコ動画」でのステマ指示文書について、文章表現と世論誘導技術の観点から分析します。
週刊文春の報道によれば、小泉陣営がニコニコ動画のコメント欄に投稿するための24パターンのコメント例を用意していたとされています。この24のコメント例がどのような戦略的意図のもとに構成されているのでしょうか。
① ようやく真打ち登場！
② これは本命候補でしょ！
③ 総裁まちがいなし
④ あの石破さんを説得できたのスゴい
⑤ なんか顔つき変わった！？
⑥ 去年より渋みが増したか
⑦ 泥臭い仕事もこなして一皮むけたのね
⑧ 困った時のピンチヒッター感ある
⑨ 期待感しかないでしょ
⑩ 野党への切り返しはするとかったぞ
⑪ コメ大臣は賛否両論だけど、スピード感はあったな
⑫ 単純にいい人そうなんだよな～
⑬ 確かに若手の両側見良さそう
⑭ むやみに敵を作るタイプじゃない
⑮ 頼む 自民党を立て直してくれ
⑯ 「保守政党 自民党の神髄」出ました
⑰ ビジネスエセ保守に負けるな
⑱ 奇をてらわず、真面に仕事してくれる人がいい
⑲ もう一度自民党に期待させてくれ
⑳ 谷垣総理みたいに「みんなでやろうぜ！」
㉑ チーム道次郎は仲間が多いからなぁ
㉒ 前回は議員票が一番多かったもんな
㉓ 側で見てる人は分かってるんだよ
㉔ やっぱり仲間がいないと政策は進まないよ
24のコメントに見られる構造
1. 段階的な印象形成の設計
コメントは計算された順序で配置されています：
- ①-③：期待感の醸成（「真打ち」「本命」「まちがいなし」）
- ④-⑦：具体的な実績や成長を示唆
- ⑧-⑫：多角的な能力評価
- ⑬-⑱：人物像・政治姿勢の肯定
- ⑲-㉔：党再生への期待と組織力の強調
この構成は、読者を「期待→納得→共感」へと誘導する典型的な説得技法です。
2. 多様な支持層を装う言語戦略
- カジュアルな口語表現：「でしょ」「なんか」「よな～」
- 感嘆符の多用による感情的支持の演出
- 疑問形（⑤⑥）による自然な観察の装い
これらは異なる投稿者による自発的コメントを装うための技術です。
3. 批判の予防的中和
- ⑧「ピンチヒッター感ある」→ネガティブ評価を先に出して無効化
- ⑪「賛否両論だけど」→弱点を認めつつ長所を強調
この手法により、批判的な視点を持つ読者も取り込む設計だ。
4. 具体性の戦略的回避
④の「石破さんを説得」以外、具体的な政策や実績がほとんど言及されていません。
これは：
- 検証可能な事実を避け、反論を困難にする
- 感情的・印象論的な共感を優先
- 他候補にも転用可能な「テンプレート」としての機能
5. 組織的支持基盤の強調
㉑-㉔で「仲間が多い」「議員票が一番多かった」と繰り返し、バンドワゴン効果（勝ち馬に乗る心理）を狙っています。
プロパガンダ技術との符合
この文書は、古典的な世論誘導技術の教科書的実践例といえます：
- バンドワゴン効果
「みんなが支持している」という印象を作り、同調圧力を生む - 証言法
⑳で谷垣禎一氏に言及し、尊敬される人物との連想を誘発 - 平凡化
⑫「いい人そう」など、親しみやすさ・庶民性を演出 - 感情への訴求
⑮「頼む 自民党を立て直してくれ」など、理性より感情を刺激 - 選択的真実
肯定的情報のみを提示し、ネガティブ情報を完全排除 - 反復と一貫性
24個全てが異なる角度から同じ結論へ誘導
対抗馬・高市早苗氏への攻撃
特に注目すべきは、高市氏を意識した以下のコメントです：
⑭「むやみに敵を作るタイプじゃない」
→高市氏の強硬姿勢を「過剰」と印象づけ
⑯「保守政党 自民党の神髄」出ました
→高市氏の「真正保守」主張へのカウンター
⑰「ビジネスエセ保守に負けるな」
→最も直接的な攻撃。高市氏を「偽物」と断定
⑱「奇をてらわず、真面に仕事してくれる人がいい」
→高市氏の政策を「奇をてらった」ものと暗示
⑳「谷垣総理みたいに『みんなでやろうぜ！』」
→協調型vs高市氏のトップダウン型という対比
ここに見られる戦略
- 保守の定義争い：「本物vs偽物」の対立軸設定
- 性格・スタイルの対比：「協調的vs対立的」という印象操作
- 「ビジネス」という侮蔑語：高市氏の主張を「票集めの道具」と矮小化
- ジェンダーステレオタイプの利用可能性：「奇をてらう」「敵を作る」という表現が、女性政治家への否定的な偏見を刺激する懸念
結論
この24のコメント例は、ネット上の「自然発生的な草の根支持」を偽装するために設計された、極めて計算されたマニュアルと判断できます。
- 段階的な説得構造
- 多様性を装った一貫したメッセージ
- 批判の予防的中和
- 古典的プロパガンダ手法の体系的活用
- 対抗馬への間接的ネガティブキャンペーン
これらすべてが、世論形成の専門知識を持つ者による作成を強く示唆しています。また、「ニコニコ動画」に限定せず、より広範なSNSやネット掲示板への展開を想定していた可能性も考えられます。
このような「ステルスマーケティング」手法が政治の場で用いられることは、民主主義における健全な議論を阻害する重大な問題です。
有権者は、ネット上の「声」が必ずしも自然発生的な世論ではなく、組織的に作られた「演出」である可能性を常に意識する必要があります。そして国会議員をはじめとする政治家には、このような世論操作の実態を直視し、政治倫理の観点から真摯な議論を行うことが求められているのではないでしょうか。
【付記】
本分析は、週刊文春の報道をもとに、筆者が文章表現とコミュニケーション技術の観点から独自に考察したものです。あくまで個人的な分析であり、特定の政治的立場を支持または批判する意図はありません。読者各位におかれましては、ご自身の判断材料の一つとしてお読みいただければ幸いです。
尾藤 克之（コラムニスト、著述家）
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