自民党HPより
そういう事じゃないんだよな、と率直に思う。
自民党総裁選の5人の候補者の論戦を見ながら感じる違和感のことである。
正直、あまり面白くない。
ガソリンの暫定税率の廃止をいつ実現するのか、給付付き税額控除を実現するのか、定率減税を入れるのか入れないのか、中国との向き合い方はどうすべきか、日本経済の成長路線の導き方は何なのか、野党との連携へのスタンスは、等々、様々な質問に対して、知識を駆使して、5名の候補者が巧みに、無難に答えてはいる。ただ、あたかも「ミスがないが面白くもない官僚答弁」のようで、論戦、というよりは、形ばかりの「ぶつかり合い」の様相だ。
世上では、小泉さんの知性が足りない、そのことは論戦を見ればわかる、という解説が良く聞かれるが、本当にそうだろうか。乱暴に言えば、誰の答えも大して変わらない。
小泉氏も含め、テストで言えば、皆90点〜95点を取っていて、その意味では立派である。しっかり準備して臨んでいる様子がうかがえる。野党の側からも、メディアの方々も、ほぼ突っ込みようがない感じだ。勢い、ステマがどうした、といった一種のスキャンダルの有無のチェックの方に、どうしても意識が向かってしまう。
ただ、テストに合格しているからと言って、「良い総理」が生まれるかどうかは別だ。私見では、候補者側の問題以上に、まずテストを出す側、すなわち各種討論会等での質問の出し方が良くないのだと思う。失礼を承知で言えば、仮に質問が良いとしても、あまり骨太な答えが返ってくる感じがしないのが、今回の総裁選の直感的印象ではあるが、とはいえ、もう少し聞くべきことがあるように感じる。
では、本来どういう質問を候補者に投げかけるべきなのか。どうすれば、候補者の個性や考え方の差が出るのか。
その議論に入る前に、読者諸賢が一番気になってると思われる「総裁選の行方」、結論として誰が総理になるんだよ、という疑問について、まず一応、私の考えについて触れておきたいと思う。各所で述べたり書いたりしているので、詳しくは、このメルマガの中でも触れられている動画などを是非参照して頂きたいと思う。
略述すれば、以下の三段論法(①〜③)の帰結として、決選投票の結果、小泉氏が勝利するのではないかと思っている。
① 自民党の議員の多くが、安定的政権運営(すなわち野党との安定的連立)を望んでいる。
世論の後押しがあったはずの石破政権が、ここに来て倒れた最大の要因は、メディアが面白おかしく報じていたような、“老害的”な麻生氏による石破おろしのプレッシャーでもなく、旧安倍派の「おまいう」(お前がどの権利があって言えるのか)的な石破おろしでもなく、当選5回以下の議員の「反乱」だと感じている。
昨年の衆院選で与党が過半数を割って以来、政権運営は難渋を極めた。結果的には、維新・国民民主・立憲民主の各党をうまく手玉に取る感じで、法案等の国会通過を何とか達成してきたと言えるが、参院選の結果、両院で与党が過半数を割る形となり、益々の苦労が想定されている。
石破とは組まないと明言していた国民民主党や維新を前に、若手・中堅が、副大臣や政務官を辞しても総裁選前倒しを望むという覚悟を見せていたのは、こうした調整の苦労をしたくないからであり、格好良く言えば、国民生活をこれ以上混乱させたくないからである。新しい政権で、新たな枠組みでの安定的政権の確立を多くの自民党議員が望んでいる。
② 野党との安定的連立の可能性を考えた場合、維新との連立が相対的に一番容易である。
議員心理を考える上で一番大事なこと、すなわち、選挙区調整が一番やりやすい相手が、維新だ。即ち連立を考えた場合、最も現実的な相手が維新である。公明党が嫌がる、とか、自民党としても、大阪近辺を中心に維新との選挙区調整は必ずしも容易ではない、等々のネガティブな要素ももちろんある。が、相対的に考えた場合、立憲民主党や国民民主党よりはやりやすい。
連立の議論をすると、少なくとも建前としては、政策の一致、ということが最も重視されるわけだが、財政を巡る攻防、また、憲法改正など、保守思想を巡る立場という意味でも維新が最も近いと言える。
③ 維新との距離を考えた場合、最も小泉氏(とその後見人とも言える菅元総理)が近い。
じゃあ、5人の候補者の誰が最も維新と近いのか、ということで考えると、それは圧倒的に、小泉氏、特にその後見人の菅氏であると思われる。
吉村氏と小泉氏が一緒に万博を訪問した「絵」が喧伝されているが、もちろん、それも大きな要素だが、実際には、今の維新は、松井氏や馬場氏と近い方々のグループが「制圧」していると見るべきだ。典型は藤田氏の返り咲き(代表就任)だが、このグループは特に菅氏や小泉氏と近いと言われている。橋下氏と近い人たちのグループがこれまで中枢を掌握していたが、維新内で「政変」が起きたと言って良い状態であろう。吉村氏は、橋下氏に近いが、小泉氏・菅氏との関係も良好だ。
小泉―吉村―藤田という40代が並び立つと、世間への受けも良い。自民党の世代交代のみならず、政界の世代交代も印象付けられる。もちろん、他の候補も野党と接点がないわけではないが、この維新と小泉陣営の距離感を超える繋がりはないように思われる。
以上の三段論法から、国会議員の心理や想いをベースに考えると、決選投票で、小泉氏が選ばれる可能性が最も高いと見るのが妥当であろう。
最初の投票では党員票の割合が半分あり、特に「ステマ」問題で株を下げているので、小泉氏はそもそも決選投票に出られるのか、という懸念もなくはない。決選投票に出たとて、44歳という若さでの総理となると、伊藤博文と同い年(月数で伊藤の方が若い)、近衛文麿より1歳若く、戦後で考えると、50代前半で総理になり短命政権に終わった安倍氏や細川氏や野田氏より圧倒的に若いわけで、果たして大丈夫なのか、という心配も出て他の候補に議員票が流れる可能性ももちろんある。そうした心理も働いてか、安定感抜群の林氏が、各種調査で追い上げているとも言われている。
しかしながら、党員票を多数集める高市氏(もしくは、議員票で猛追する林氏)と小泉氏の決戦投票となり、最後は小泉氏が勝つと見るのが常道ではないかと考える。当為は別としてのあくまで私なりの客観的な予想である。
上記の三段論法的理解・解説が、少数与党下における、もっとも急所を意識した私なりの総裁選の予想である。ただ、決選投票での議員票が死命を制することを前提とすると、議員心理的には、一般論として、①次の選挙を意識した「党の顔」として誰がふさわしいか、②これまでの「貸し借り」や好き嫌いを意識すると誰に投票すべきか、という点も重要であることは論を待たない。
その点、今やアンチも増えていることは確かであるし、ネット上では、いわゆる「進次郎構文」をめぐる大喜利が大いに拡散していることも事実だが、とはいえ、小泉人気は非常に強いものがある。➀については、小泉氏に及ぶ候補はいないであろう。
自身の選挙を心配することなく(いつも当選確実で)、仲間の応援に駆け付けることが出来る小泉氏に過去の選挙の際などに地元で演説をしてもらうなどして「借り」がある議員は少なくない。「小泉進次郎来たる」というアナウンスによる集客力は抜群だ。妬みもあって、小泉氏ばかりが注目されることを面白く思わない議員もいるだろうが、②の点でも小泉氏が一頭地を抜いていると考えられる。
さて、こうした「予想」は別にして、かなり寄り道をしてしまったが、冒頭に投げかけた「本来、総裁選ではどういう論戦が展開されるべきなのか。そのために、討論会では、どういう問いを候補者に投げかけるべきなのか」について、最後に考えてみたい。
一言で言えば、候補者の世界観・考え方をあぶり出すために、より根本的・原初的な質問をするべき、ということに尽きる。それも、たとえば2〜3分以内といった短時間ではなく、10分、場合によっては15分〜20分くらいかけてじっくり答えてもらうという形式で。
「民主主義の将来についてどう考えているのか。世界情勢なども踏まえてのお考えをお聞かせ願いたい」「トランプ大統領が様々な施策を実現しているが、トランプ氏やその支持者が考えているアメリカのあるべき姿や世界観について、どう理解しているのか」「30年以上にわたる日本の停滞の真の原因は何だと考えるのか、その課題に新政権で果たしてどのように対応するのか」などなどである。
こうした根源的問いに対しての答えで、それも20分くらいかけてじっくり説明して頂くことで、候補者の真の知性や実力が問われるわけで、2分で簡潔に、「テクニカルな手取り増の方策」を答えてもらうという形式では、実は評価のしようがない。
想定問答を暗記して、間違いの無いように正確に「吐き出す」だけでは、高校受験や大学受験と何ら変わりがない。ペーパーテスト的選抜ではなく、真の人物評価による選抜が求められていることは明らかだ。
次回の総裁選までに、青山社中や政策メディアで、そうした骨太討論会を企画できるだけの実力をつける必要がある、という反省をしつつ、筆をおくこととしたい。