先週金曜日の講演で、ネズミに人の肝臓の幹細胞を移植した後、ネズミの肝臓が完全に人の肝細胞に置き換わると、ネズミはすぐに死ぬという話を聞いた。ネズミでは代謝される物質が、どうも人の肝細胞では処理できないのでは?と思った。動物種によっていろいろな物質の代謝機能や毒性がかなり異なる。
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人では何の問題もない食物が、イヌでは大きな問題となる例としてタマネギが知られている。イヌにタマネギを食べさせると、非常に危険なタマネギ中毒を引き起こす。これは、タマネギに含まれる「有機チオ硫酸化合物」が、イヌの赤血球を破壊するからだ。食後の早い時期に元気がなくなり、食欲不振や嘔吐・下痢という形で発症するが、赤血球が大量に破壊されると、貧血の症状が出るとともに、尿が赤褐色になってくる。当然、重症化すると生命の危機に至る。
調べてみると、タマネギだけでなく、ネギ、ニンニク、ニラ、わけぎ、らっきょうなどのネギ類全てに有機チオ硫酸化合物が含まれている。これらは熱では分解しないので、タマネギが含まれているハンバーグでさえ与えてはならないようだ。人は有機チオ硫酸化合物を分解する酵素を持っているので問題はないが、イヌやネコは分解できず、これがヘモグロビンに結合して赤血球を壊すとのことだ。
遺伝子研究を始めたころ、RNAを抽出する練習に実験用のイヌのすい臓を用いた。簡単にRNAを取ることができたので、次に胃がんで摘出するすい臓をいただいて人のすい臓からRNA抽出を試みた。
しかし、イヌのすい臓で簡単にできたことが、人のすい臓では全くうまくいかない。何回か繰り返したがうまくいかず、RNAを取り出すために利用していたクロロホルムの影響で肝臓を壊した。体があまりにもだるくて調べたところ肝臓の酵素値がかなり上がっていた。
半年したころに、イヌの膵臓はRNA分解酵素を作らないことを知った。人と動物でこんなに違いがあることを実感した。このあと別の方法でRNAを抽出できたが、体を壊し、研究を断念しようと考えたこともあった。あの時、もっと重症化していたら、研究者としての私はいなかった。
話を戻し、さらに調べてみると、ブドウ・干しブドウはイヌが食べると急性腎不全を起こすことがあるそうだ。原因は不明だが、うっかりとブドウ・干しブドウを置いておくと大変だ。人工甘味料のキシリトールもイヌには大敵だ。キシリトールを摂取するとインスリンの分泌を促し、低血糖になる。シュガーフリーのガムやキャンディーを放置しておいてはならない。
驚いたのがアボカドだ。メキシカンレストランでは必ずワカモレ(主にアボカドとトマト)サラダを食べるが、こんなことは考えたことはなかった。アボカドに含まれるペルシンが鳥類やウサギ・馬には有害とのことだ。これが心毒性などを引き起こす。ところが、このペルシンが、人では乳がん治療薬として使うことが検討されているようだ。世の中、不思議だ。
また、ドッグフードをネコに与えると、ビタミンやある種の脂肪酸不足になるという。今日の夕食にはタマネギもアボカドもあった。このブログを書いていながら、不思議な気分になってきた。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年10月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください