外資系で働く日本人は売国奴なのか?

黒坂岳央です。

「外資系に就職する日本人は「売国奴だ」といった趣旨の発言が、SNS上で激しい議論を呼んでいる。

優秀な人材が、より高い給与、より大きな成長機会を求めて外資系企業を選ぶのは、資本主義社会における極めて合理的な選択である。しかし、この流れを「国費で育てた人材が、外国の利益のために働くことによる国富の流出だ」と批判する声もあるようだ。

本稿では「外資へ行くのは売国奴」について考えたい。

metamorworks/iStock

日本人が外資系へいくインセンティブ

筆者自身、会社員時代に複数外資系企業で働いた。面接や仕事のイベントなどで行った会社を含めるとかなりの数の外資を見てきた経験がある。その経験から言うと、正直、外資系企業の魅力は日系企業以上に大きい部分は少なくないと思っている。

まず給料だ。「いや外資系は退職金が出ないからトータルだと日系企業も悪くない」という反論がありそうだ。確かに外資系は退職金制度がないところもあるが、給与やボーナスに「前払い退職金」的な要素を含んでいることや、若いうちに高年収に反映する傾向だ。実際、求人募集を見れば同じ業種、同じ役職で年収は100万、200万円違うことは珍しくない。

そして仕事内容だ。筆者は英語力を活用したいと思って転職先を探していたので余計にそうだったのだが、外資は英語力を活用しやすい環境が整っている。

自分の場合は最終的に外国人比率50%くらいの非常に多国籍な仕事についた。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オセアニア、アフリカ、中東と、本当に全世界丸ごとここに来ているのでは?と錯覚するほど色んな人が同じフロアにいて、ダイナミックに国際的な仕事が出来た。

一緒に仕事をするだけでなく、業務終了後は外国人社員と食事に出かけたり、役員の会社借り上げタワマンにおじゃましたりと面白い経験が出来た。使っているシステムや業務研修もアメリカ由来の先端テクノロジーやベストプラクティスが多く、非常に勉強になったという感覚がある。

もちろん、いいことばかりではない。結果を出さねば外資は居場所がない。「今は出来なくてもじっくり育てよう」なんて発想は基本的に希薄であり、たとえば部長のポジションが必要となれば、課長を昇進させるのではなく、直接部長を外から連れて来る。

さらに社内政治は日系企業以上にドロドロする部分もある。特に本社から派遣された外国人役員は社内より、本社の方を向いていて仕事をするのでそれぞれのベクトルの違いに違和感もあった。正直、人間関係の面倒くささは想像以上な部分もあった。

だが総じて「仕事はお金、キャリアのため」と割り切るなら、まず給与面で外資系企業は日系企業より高い傾向にあるので、そちらに人が流れるのは仕方がない面があると思っている。「愛国心」だけではこのインセンティブの壁を超えるのは現実的ではないだろう。

全員が一生、外資に尽くすわけではない

外資系でグローバルな知見を積んだ人材は、その経験を活かして日系企業に転職したり、国内で起業したりすることで、学んだ知識やプロセスを新しい職場や企業文化に「輸入」することは少なくない。

たとえば著名な外資系金融のゴールドマンサックス出身者が会社を起業したり、外資系コンサル会社のマッキンゼー出身者がビジネススキルをまとめたものを書籍として出版したり、やはりコンサル会社を起業している。

そのような活動で得をするのは日本経済、日本人である。筆者もそうした外資出身者の活動の恩恵を受けている実感がある。

「せっかく日本の税金、教育で育てた人材が外資で働くのは国益流出では?」と心配する人も多いが、全員が一生外資で働くわけではない。自分自身も今は外資系で働いていないし、現役の頃から「後◯年、この会社でキャリアを蓄積したら次はこうする」といった「数年間のキャリアアップのはしご」のように割り切った解釈で働く人も少なくなかった。

筆者からすると、外資系企業は、「職業訓練所」のような認識だった。それなら国内企業で働けばいいのではないか?という意見もありそうだが、それでも海外由来のテクノロジーやビジネススキルには大きな価値があるし、それをシェアすることで国益になる。

真の愛国心とは何か?それは、感情的に人材を国内に閉じ込める鎖国的な発想ではないはずだ。外資に行くような人は傾向として英語や海外に興味があるだろう。

だが、多くは生まれた国へ戻って来る。つまり、日系企業に転職したり、国内で起業して国益につながる行動を自然に取っている。その時、国益になる活動をするのなら、それは立派な愛国行動と言えるのではないだろうか。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。