イスラエル軍は水曜日、パレスチナ自治区ガザ地区に対する夜間の大規模空爆を実施した。地元保健当局によれば、104人が死亡し、そのうち46人が子どもだった。10月10日に始まった停戦以降、最も多くの犠牲者が出た攻撃であり、脆弱な停戦体制の実効性に深刻な疑念を生じさせている。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、空爆を命じた理由として、ハマスによる停戦違反を挙げた。具体的には、今週ハマスがイスラエル側が戦争中に拘束した人質の一部遺体とされる体の一部を引き渡したことや、ガザ南部ラファでの銃撃戦でイスラエル兵が死亡したことを理由にしている。
今回の一連の動きは、停戦協定が「イスラエル側の判断でのみ運用される」構造を浮き彫りにしている。停戦が事実上、軍事行動停止の開始・継続・解除をイスラエルの都合で決められる制度になっていることは、国際社会からの懸念を強めている。
停戦協定の実現は遠のくのか ネタニヤフ首相インスタグラムより
トランプ前政権の「20項目ガザ和平案」との対比
トランプ政権が提示した20項目の和平案は、ガザ地区を「非過激化・テロフリー化」し、再建と経済振興を通じて安定を図ることを目的としていた。主な内容は以下の通り、停戦や人道支援、経済開発、武装解除まで包括している：
- 停戦と人質返還：合意があれば即時停戦、イスラエル承認後72時間以内に人質返還。
- 囚人交換：人質返還後、イスラエルは250人の終身刑囚や2023年10月以降拘束のガザ人1,700人を解放。
- ハマス恩赦と安全通行：武装放棄と平和共存を誓うハマス構成員には恩赦。希望者はガザからの安全な出国も保証。
- 人道支援・再建：水・電力・病院・道路・瓦礫除去などの支援を直ちに実施、国連や赤新月社の監督下で配布。
- 技術者による暫定統治：ガザは非政治的な暫定委員会が管理。トランプ主導の「和平委員会」が監督。
- 経済開発：特別経済区の設立、外国投資誘致、雇用創出、再建計画策定。
- 完全武装解除：トンネル・兵器・生産施設の廃絶と監視下での再統合プログラム。
- 国際安定化部隊（ISF）配備：多国籍部隊が警察訓練、ガザ国境の安全確保を担当。
- 段階的なイスラエル撤退：ISFが管理権を持つ段階で段階的撤退。
- 対話と平和促進：宗教間対話、信頼醸成プログラムを推進。
- 将来的な国家権利：パレスチナ自治政府の改革と再建が成功すれば、最終的に国家権利・独立が可能。
20項目の和平案は理想的には包括的で、停戦・経済・統治・安全保障まで統合しているが、実現には双方の信頼構築が不可欠であり、実務面では大きな課題を抱えていた。
今回の空爆を踏まえると、停戦協定は「形式上存在するが、履行はイスラエル側の判断次第」という構造にあることが明らかになった。トランプ和平案でも「イスラエルが承認すれば人質返還・停戦開始」と規定されており、停戦の発効・継続が一方的判断に左右されうる仕組みになっている。
その結果、停戦協定は、双方が対等に合意し遵守するものというより、「イスラエルが条件を満たしたと判断すれば軍事行動を停止、条件違反や安全保障上の理由があれば再開できる」という状態に近い。今回の空爆は、まさにこの「イスラエルの都合による停戦運用」の典型例といえる。
停戦の信頼性や持続可能性は、単に文書上の合意ではなく、双方が合意条件を遵守し、実務的に監視・履行できるかにかかっている。国際社会が監督に関与しても、停戦再開直後に大規模空爆が起こる状況では、住民やパレスチナ自治側の信頼は失われやすく、和平プロセスや再建支援への影響も避けられない。
トランプ政権の20項目案は包括的かつ野心的であるものの、停戦や再建の実行を「イスラエルの承認・監督下」に置いている点で、今回の事態が示すように、停戦の実効性が一方的判断に左右されるリスクは依然として残る。
