想定通り金利を上げなかった日銀:「四者四様」の金融政策決定会合

24時間のうちにカナダ、アメリカ、日本、EUの4か所でそれぞれの金融政策決定会合がありなかなか面白い展開を見せました。順を追ってみてみましょう。

カナダは二会合連続で引き下げ、2.25%としました。米加の関税交渉が不調になっている中、国内の景気が失速しそうな黄色信号が灯っていることで思い切って利下げを継続させました。マックレム中銀総裁は一応、金利引き下げは一旦はここまでと打ち止め感を提示していますが、そればかりは先行きの景気を見ないことには何とも言えません。

カナダ経済が冴えないのは抑制的な移民政策が継続していることとアメリカとの関税問題が最大の理由でしょう。またその影響もあるのか、不評だったアルバータ州の教師の3週間にわたるストライキがようやく収拾したのに、次に州規模のゼネストをやる可能性が出てきており、同州の経済の後退は目に見えてきています。更にオンタリオ州のダグ フォード首相の反アメリカ発言や行動はカーニー首相も抑えるのが精いっぱいになっており、カナダのあちらこちらで不満が爆発しています。個人的にはカナダ経済の先行きはあまり楽観視しておらず、底打ちした感じは実感としてありません。

次にアメリカの利下げですが、パウエル議長の記者会見を生放送で見ていて、何度も繰り返したのが12月の会議に向けて政策の意見が割れているという点でした。同席した記者もそれが気になるのか、数人が同じような質問を展開していました。パウエル氏はもともと慎重で記者会見においてフォワードガイダンス的なことをしないこともあり報道ではネガティブなトーンとなり、株価も冴えない展開となりました。

パウエル氏は急進的な動きを警戒しており、世論の期待が暴走しないよう、スピードコントロールはFRBが担うというスタンスにあるのだとみています。よって仮に12月も利下げトーンが先行すれば貪欲な市場は「ではその次もあるのか」となるのは間違いなく、自分の退任時期が見えてきた中、FRBの威信を賭けるということでしょう。お前はどう思うのか、と言われたら雇用が弱含んでいるのに対して関税引き上げ前の駆け込み輸入した在庫が切れ始めており、11月から12月という消費が一年で最大に盛り上がる時期を控え、物価との闘い次第かとみています。ベクトルは利下げ方向ですが、12月に下げず1月に下げるという可能性もあるでしょう。

さて、日銀です。想定通り金利は上げませんでした。読めないのは12月です。市場の予想では12月の利上げはあるとの見方が高まっています。一方、植田日銀総裁は春闘の初動を見たいとのことで個人的には12月はないかも、という気がしています。春闘の初動とは年内とは思えず、普通は年明け、とすれば1月22-23日の会合まで引っ張る気かもしれません。それが植田総裁の真意なのか、リップサービスなのか、片山大臣からのプレッシャーなのか、そこはわかりません。全てあるのかもしれません。

植田和男日銀総裁 日銀HPより

一方、私は為替は要注意だと思います。今回の日銀の政策決定会合で利上げ意見が前回同様2名に留まり、利上げ機運が会合出席者の中で醸成されていないことが判明したため、円安が一気に進んでしまいました。今週来日していたベッセント財務長官は日銀は利上げすべきと言い残して出国しています。それは財務長官レベルとして日米為替水準を念頭に発言したものと思われますので仮に160円に近づくような動きとなれば財務省による介入や日銀による12月利上げが本質論とは別に出てくる可能性は否定できないでしょう。

最後にEUの金利据え置きです。これを書いている時点でまだラガルド総裁の記者会見がカバーできていないので結果だけ見ての話ですが、基本的には想定通りでサプライズ感もありません。欧州は全体として経済沈滞ムードが強く、欧州が一枚岩にもなっておらず、各国が自国のことで精いっぱいという様子が見受けられます。インフレ率は低下し、安定的になっているのでこれ以上、利下げをする理由もないし、利上げする理由もない、という感じでしょう。

欧州の場合、ロシア産のガスの輸入を止めることになっています。本当にできるのか、というのが私の疑問。欧州とロシアの結びつきはアメリカのように海と2つの国としか国境を接していない独立独歩の国とは違い、国家間の影響力は歴史的、地政学的なものを含め、我々の理解を超えるものがあります。よって勧善懲悪のような切った張ったの話ではないはずです。さらにそれを巡り、国内が揺れ、議論百出となります。ある意味、人間臭いのが欧州でありますので個人的には金利据え置きという問題より欧州経済を大所高所からみてどう浮揚させるのかという明白な新たなるビジョンを出さないとEUの存在価値に疑念を呈するようになってしまう気がします。

四者四様の金融政策決定会合ですが、世界経済を見る限り「K字経済」に陥っているように見えます。つまり富める者はより富み、貧するものはより貧するという経済です。アメリカやカナダではそれが強く出ています。そしてKの字の上(富む側)につくために乗り切れない船に人が溢れ、そこから海に振り落とされるようなシーンが目に浮かびます。個人的には「ノアの箱舟経済」と言ってもよい我慢を強いられる状況にあるとみています。本質的な世界経済の改善には時間がかかりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月31日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。