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「駅から徒歩10分、30坪。3000万円」
いい物件だ、と思った。都内でこの条件なら妥当だろう。相続したCさんもそう思っていた。地価も上がってるし、もしかしたらもっと高く売れるかも——そんな期待もあった。
不動産会社の査定結果を待つ間、Cさんは軽い気持ちでいた。いや、正直に言えば、ちょっとウキウキしていたらしい。「これで住宅ローンの一部が返せる」とか「子供の学費に回せる」とか。皮算用、というやつだ。
で、結果は。「建て替えができない土地です」
……は?
「知識ゼロでも絶対後悔しない! 損しない! 不動産相続の新・ルール」(髙橋 大樹著)WAVE出版
田園調布の呪い
「一度取り壊すと、新築できません」
意味がわからない。都内の、駅近の、普通の住宅地なのに?
問題は「道路」だった。
見た目は普通の道だ。車も通る。宅配便も来る。でも、建築基準法上の道路じゃない。だから建て替えができない。現在の建物はそのまま住めるけど、壊したら終わり。
査定額は1000万円。当初の3分の1である。
もうね、笑うしかない(笑えないけど)。
話を変える(というか、似たような話なんだけど)。
田園調布に家を建てる——成功者の証、みたいなイメージがある。実際、事業で成功したAさんは念願叶って邸宅を構えた。3人の息子に平等に相続させるつもりで、将来設計も完璧だと思っていた。
ところが。
Aさんが亡くなって相続の話になったとき、問題が発覚する。田園調布には住民協定があって、「165平方メートル未満に分割しちゃダメ」というルールがあったのだ。
つまり、3つに分けられない。
誰も土地全部を買い取る金はない。じゃあどうする?
長男「売ろう」
次男「親父の家を他人に渡すのか」
三男「じゃあ、どうすんだよ」
で、喧嘩になる。
いや、喧嘩どころじゃない。過去の恨みつらみが全部出てきた。「兄貴は昔から親に甘えてた」「お前だって新車買ってもらっただろ」——そういう話になる。
最終的には弁護士を立てる泥沼の争い。あれほど仲が良かった3人兄弟は完全に絶縁。二度と連絡を取り合うことはなくなった。
高級住宅地の呪いである(言い過ぎか)。
どうすればよかったのか
答えはシンプルだ(結果論だけど)。
親が生きてるうちに確認する。
それだけ。
Cさんなら、役所の都市計画課で「接道義務」を確認すればよかった。幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接してるか——たったこれだけで、2000万円の差が出たのだ。
Aさんなら、住民協定を把握して、遺言書に明確な方針を書いておけばよかった。「売却して3等分」とか「長男が相続して他の兄弟に代償金」とか。生前の家族会議で説明しておけば、あんな泥沼にはならなかったはず。
Bさんは……まあ、親が元気なうちに不動産会社に相談して「正確な価値」を知っておくべきだった。そうすれば、生前贈与とか売却とか、別の手が打てたかもしれない。
今すぐ確認すべきこと
というわけで(強引にまとめるけど)、親が元気なうちに以下を確認しておいた方がいい。
まず、役所で「建築基準法上の道路」に面してるか確認。これ、マジで重要。
次に、住民協定や条例を調べる。最低敷地面積の制限がある地域は意外と多い(田園調布だけじゃない)。
そして、不動産会社に相談して市場価値を把握する。特に昭和に開発された郊外や地方の物件は要注意だ。ゼロ円物件の可能性がある。
「縁起でもない」って言われるかもしれない。でも、知らないで後悔するよりマシだ。
というか、3000万が1000万になる方がよっぽど縁起が悪いと思うんだけど。違うか?
※ ここでは、本編のエピソードをコラムの形で編集し直しています。
尾藤 克之(コラムニスト、著述家)
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