
Kanjana Jorruang/iStock
家計の固定資産の維持費用と言える固定資本減耗について国際比較した結果を共有します。
1. 日本の家計の固定資本減耗
私達家計の固定資産の多くは住宅です。経済統計上も、家計の固定資産は住宅と、個人事業主として所有している固定資産として集計されています。
固定資本減耗(Consumption of fixed assets)は、その固定資産の年間の価値の目減り分を計上する項目です。
企業会計で言えば減価償却費に相当する概念ですが、時価評価される点や、対象の範囲が異なるなどの差異があるようです。
固定資本減耗は、その規模の固定資産を維持するのに必要な維持費用という理解をすればよいように思います。
新築で住宅を建てる場合を考えると、住宅を建てた瞬間は私たちは建築費用を一括して支払い、まったく同額の価値の住宅という固定資産を受け取ります。
毎年、その住宅に住み続けながら、自分に自分の住宅サービスを提供し続けることになるわけです。
住宅は、経年劣化等で価値が目減りしていきます。
その減価分が固定資本減耗という事ですが、見方を変えれば住宅という固定資産を毎年分割して「消費」していることになり、固定資本減耗はその消費額という解釈もできるかもしれません。

図1 営業余剰・混合所得 家計 日本
国民経済計算より
日本の家計は、持ち家からの所得となる営業余剰と、個人事業主としての所得となる混合所得に分かれます。
固定資本減耗も、住宅の減耗分となる営業余剰に関する固定資本減耗と、個人事業主としての設備などの減耗分となる混合所得の固定資本減耗に分けられます。
数値的に見れば、営業余剰の固定資本減耗は1997年から若干増えていて、混合所得の固定資本減耗は減少しています。
個人事業主が大きく減少しているため、日本の家計の混合所得とその固定資本減耗は大きく目減りしている事になります。
一方で、持ち家を不動産業として運用しているという営業余剰で見ると、一定範囲で推移しています。
より厳密に見てみると、営業余剰はここ数年減少傾向ですが、固定資本減耗は拡大傾向です。
持ち家自体は減少傾向となっていますが、価格上昇により時価評価される減耗分は拡大している状況のようです。
2. 1人あたりの推移
ここからは、日本の家計の固定資本減耗がどの程度の水準なのか、国際比較して確認していきたいと思います。
まずは、人口1人あたりのドル換算値(為替レート換算)から眺めていきましょう。

図2 固定資本減耗 1人あたり 家計 為替レート換算値
OECD Data Explorerより
人口1人あたりの推移を見ると、日本(青)は1990年代に非常に高い水準に達した後は停滞傾向が続いていて、他の主要先進国に追い抜かれています。
特に2022年以降は円安が進んだ事もあり、2023年の時点ではフランス、イギリス、OECDの平均値を下回ります。
ただし、様々な指標で日本の水準が他の主要先進国やOECD平均値を大きく下回る事と比べると、相対的にはまだ高めの水準が維持されているとも解釈できそうです。
3. 1人あたりの国際比較
続いて、人口1人あたりの家計の固定資本減耗(為替レート換算値)について、より広い範囲で国際比較してみましょう。

図3 固定資本減耗 1人あたり 家計 2023年
OECD Data Explorerより
2023年の1人あたりの水準を比較すると、日本は1,479ドルでOECD29か国中16番目、G7最下位の水準です。
持ち家以外にも個人事業主としての固定資産分も加味されるため、個人事業主の多い国(イタリアなど)ほど水準が高くなりやすい点に注意が必要です。
ドイツが非常に高い水準なのも特徴的です。
それでも日本の水準は、先進国の中では中位~やや低い程度となりそうです。

図4 生産資産 住宅 1人あたり
OECD Data Explorerより
住宅の資産残高の水準を見ると、日本は主要先進国でかなり低い水準です。
固定資本減耗は固定資産残高に影響を受けるはずですが、日本は相対的に残高が低い割に減耗が大きいという事になりそうです。
木造住宅が多く、他国と比べて減価しやすい(耐用年数が短い)などの影響もあるのかもしれませんね。
非常に興味深い観点なので、今度もう少し深堀してみたいと思います。
4. 対GDP比の推移
続いて、GDP全体に対する割合となる対GDP比についても見てみましょう。

図5 固定資本減耗 対GDP比 家計
OECD Data Explorerより
図5が家計の固定資本減耗 対GDP比の推移です。
日本はアメリカやフランス、イギリス、OECDの平均値と比べてかなり高めで推移してきたことがわかります。
個人事業主の多いイタリアに比べれば近年は下回っています。
ドイツは非常に高い水準に達していますね。
過去のデータがないため、長期的な傾向はわかりませんが、ドイツの住宅は耐用年数が80年と日本の3倍程度に設定され、もともとが減価しにくいようです。
一方で、近年ではインフレが加速している面もありますので、時価評価した際の固定資本減耗がかなり高く評価されている可能性がありそうですね。
固定資本減耗・減価償却とは何かを考える良い事例のように思います。
5. 対GDP比の国際比較
最後に対GDP比の国際比較をしてみましょう。

図6 固定資本元減耗 対GDP比 家計 2023年
OECD Data Explorerより
対GDP比の国際比較をしてみると、日本は4.4%でOECD29か国中7位、G7中3位の水準です。
先進国の中でも家計の固定資産の目減りが大きい方になりますね。
個人事業主が多いイタリアが5.4%で上位なのはわかりますが、ドイツが6.2%で1位というのがとても印象的です。

図7 個人事業主割合 2022年
OECD Data Explorerより
ドイツは日本よりも個人事業主の割合が小さく、個人事業主としての固定資産の減耗分は限定的と考えられます。
やはり物価上昇による減耗分としての評価額がかなり上昇している事が考えられそうですね。
6. 家計の固定資本減耗の特徴
今回は家計の固定資本減耗についてご紹介しました。
多くの先進国で持ち家の減価分が大半を占めるはずですが、個人事業主の多い国では個人事業としての固定資産の減価分も無視できない影響がありそうです。
日本は住宅の固定資産残高が少ない割に、固定資本減耗が相対的に多く、毎年の固定資産の維持費用が嵩みやすいという特徴があるのかもしれません。
家の建て替えが多く、木造も多い事から平均的な耐用年数が短い事も影響しているように思います。
欧州では住宅はリフォームしながら価値を維持していくという考えが強いと聞きますが、この統計でもそのような事が窺えますね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。






