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11月7日の『CNN』(日本語版)が「クマによる人的被害急増の日本、自衛隊とドローンで対策へ」という記事で、「英国政府は日本への渡航勧告にクマ注意報を追加した」と記していた。25年の訪日外国人が4千万人を超えて過去最高となる見込みの中、この問題が海外でも話題になっていることに少々驚いた。
米国の左派メディアらしく「気候変動はクマの季節性の行動パターンにも変化をもたらしている可能性がある」などと述べてはいるものの、全体の論調は的を射ていて、環境省が「今年のクマの急増はドングリの不作が原因だと指摘」し、「ドングリの不作は23年にも同様の襲撃事件を引き起こした」とも書いている。
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「地域環境計画」なる民間企業が運営する鳥獣害対策の知恵袋というサイトに「クマの生態とブナの実の関係」と「秋にクマ被害が増えるのはなぜ?」という、とても興味深い記述と図表が掲載されている。それを引用すると・・
クマの生態とブナの実の関係
クマは主に果物、魚、小動物などを食べますが、特にブナ等の堅果(実)が食事の大部分を占めることがあります。ブナの実の豊作年はクマの繁殖にも寄与し、逆に不作年は食糧を求めて人間が住む場所に出没する可能性が高まります。・・・つまり、クマはエサが少ない場合、エサを求めて動きまわった結果、人里にまで降りてきてしまうのです。
添付されているクマの主な餌となるブナとミズナラの落果量(実が落ちた量)とツキノワグマの目撃頭数の相関グラフには、落果量が多いほど目撃頭数は少なくなり、反対に落果量が少ないほど目撃頭数は多くなることが、一目瞭然に示されている。

出典:森林立地/45 巻 (2003) 1 号
「兵庫県氷ノ山山系におけるブナ・ミズナラの結実とツキノワグマの目撃頭数の関係」
秋にクマ被害が増えるのはなぜ?
秋はクマが冬眠に備えて大量の食物を摂る蓄積期間です。この時期、特に生息地の山中のブナ等の堅果類が不作の年には、クマは人里に下りてくる可能性が高く、被害が増加します。・・・過去のデータによると、特に10月から11月にかけての被害報告が多くなっています。これはクマが冬眠直前に最も活動的で、食糧を求めるからです。
こちらでも、添付されている2001年から10年までの「どんぐり類」の凶作年・豊作年とツキノワグマの月毎の出没件数の関係のグラフでその相関関係が読み取れる。
凶作年だった10年には8月約800件、10月約1400件、11月~翌年2月まで各月約1600件の目撃件数があり、同様に凶作年だった04年と08年も、月毎の目撃件数は10年比で06年は約6割、08年は約3割で、月別の傾向は10年と同じだ。他方、豊作年の05年、07年、09年での同期間の目撃件数は100~150件で、10年の1割程度に収まっている。

出典:兵庫 ワイルドライフモノグラフ
「兵庫県のツキノワグマの出没状況と対策」
また、環境省の日本の森とクマというサイトにも以下の記述がある。
日本の国土のおよそ4割にクマ(ヒグマ・ツキノワグマ)が生息しています。生息地のほとんどは森林ですが、特にどんぐり類が不作の年は食物を求めてクマの行動範囲は広がり、本来の生息地を離れ、人里近くに近づくことがあります。
添付のポンチ絵には「どんぐり類が不作」⇒「クマは行動範囲を広げる」⇒「人里近くにも出て来る」⇒「クマによる被害が増える」とあり、別の絵には「12月~4月まで冬眠(地域や年によって変わる)」⇒「冬眠から覚めると山菜(やイチゴ類)などを食べる」⇒「6月頃に繁殖期」⇒「夏はハチミツや昆虫を食べる」⇒「秋は木の実(どんぐり類)を食べる」と、ツキノワグマの四季が記されている。
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こうしてみると、(北海道のヒグマは別として)本州と四国のツキノワグマが人間に危害を加える主な原因が、冬眠に入る前の9月から12月の期間に、どんぐり類の凶作によって食糧が不足し、それを求めて人里に下りて来ることにある、と改めて認識できる。
これへの対策として「ゾーニング」というものがあり、環境省のサイトにもクマ類のゾーニング管理の現状が示されている。それによれば、秋田・岩手・福島・栃木・神奈川・山梨・富山・石川・福井・京都・兵庫、および岡山を除く中国地方各県で実施されている。

また、ゾーニング管理を取り入れていない理由として以下が挙げられている。

そして、基本的なゾーン区分と対策を以下のように記している。

しかし、11月6日の『朝日』は、「出没が最も多い県は、岩手の4499件で、秋田(4005件)、青森(1835件)、山形(1291件)が続いた」と本年度のクマの出没件数を報じていている。つまり、ゾーニング管理をしているにも関わらず秋田が4000件を超えているのである。
ゾーニング管理をやらないよりやる方が良いのだろう。が、「どんぐり類」の凶作によって「コア生息地」で十分な食料を得られなければ、クマは生きるために人里にそれを求めて来ざるを得ないのではなかろうか。こうした地域での再エネ施設普及が影響しているとの言説もあり、事実とすればクマもその被害者である。
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先月末に鈴木秋田知事から小泉防衛相に「クマ対策に自衛隊の後方支援を」との要望がなされた際、筆者はメール仲間数名に、「中国からどんぐり類を大量に輸入して、自衛隊のヘリコプターやドローンを使って山奥に撒くのはどうだろうか」との思い付きを送信した。
その時はそれ切りだったが、最近彼らと飲んだ際にその話題になり、1人からは中国でどんぐりが採れるのか? もう1人からは廃屋だらけで実が成ったままの柿木が方々にあるから、秋田市役所に苦情電話する暇があったら、それを捥いで秋田の山に撒けば良いのに、との迷案も飛び出した。
どんぐり類は種類が豊富で、いずれもブナ目ブナ科に属し、ブナ亜科にブナ属、コナラ亜科にコナラ属・コナラ亜属(クヌギやカシワ)・アカガシ亜属・カクミガシ属、クリ亜科にクリ属・マテバシイ属・ニセマテバシイ属・トゲガシ属・シイ属があるといった具合だ。
中でもコナラ亜科はどんぐり界の多数派で、日本産どんぐりの73%、世界のどんぐりの60%以上がコナラ亜科だそうだ。また、中国には約60種類のどんぐりがあり、クヌギやカシワなどの実の「どんぐり粉」が豆腐・餃子・春雨などに使われる。韓国の冷麺用どんぐり粉も有名だ。
日本で見かける「天津甘栗」の多くも中国産だし、2000年前後によく出張した広東省東莞市でも、少し奥に入ると「どんぐり」ならぬ「龍眼」の木がたわわに実を付けたまま放ってあった。こういう土地柄に3億人の農民工がいて、米国から2500万トンの大豆輸入を直ぐにOKする国柄である。
高市総理から太っ腹な習近平主席に電話して、薛剣駐大阪総領事の「外交関係に関するウィーン条約第4条」違反を告げつつ、「人を襲うクマを保護するためどんぐりを買いたい」と申し入れるなら、2万トン程度のどんぐりを送ってくることなど容易く応じるのではなかろうか。
そのどんぐりを、凶作年の秋口から数ヵ月間、週に数回、数十トンずつ、広葉樹林数十ヶ所に、自衛隊がヘリコプターやドローンで投下するのである。もし間に合うなら、年内に秋田県だけでも試験的にやってみてはどうだろうか。くれぐれも、クマに悪意はないのだから。






