続出する企業決算発表延期のなぜ

日本は9月の半期の決算シーズンピークを超えたところですが、このところどうも目立つのが「決算発表延期のお知らせ」。基本的にはこのたった一言の発表で株は暴落するのがセオリーです。理由は「良くないことが起きている」「へたすると上場廃止?」そして時と場合によっては機関投資家やファンドが内部の規定上、投資を継続できなくなるため、どんな理由にしろ、一方的な売りになることもあります。

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今回の決算期で延長を発表したのはニデックをはじめアサヒビール、産業ガスなど多角事業のエアウォーター、太陽光パネルのAバランスといったところが上がっています。4-6月決算ではイオンも決算発表延期をしました。

企業決算において不正、不適切、更には監査法人の意見不表明が続出しているのは何故なのでしょうか?

企業の個々の理由もありますし、複合要因の場合もあると思いますが、一つの引き金はオルツ社の不正経理の発覚で監査法人が監査姿勢を引き締めている影響はあると思います。この小さなAI技術やクローン技術で猛烈にアピールし、日経も大々的に持ち上げていた「小粒な成長企業」が循環取引で一瞬のうちにして上場廃止、そして再生もできず、破産清算となったのは世間一般ではあまり知られていないかもしれせんが、監査法人や企業の経理担当者には激震だったと思います。その背景の最大のポイントは同社のイカサマ経理を監査法人が見抜けなかったことにあります。

同社に経営企画部長として採用された方は入社後すぐに、自ら持つ公認会計士としての知識もあり、経理処理がおかしいとすぐに気がつき、社長、CFO、監査役らに循環取引ではないか、と直訴するものの適当にかわされます。この方はおかしいと思い続け、自らの確信をもってわずかひと月で退社を決意します。勇気ある行動でした。こんなことも起きていたのに監査法人はなぜ気がつかなかったのでしょうか?

監査法人も世界的な規模のところから聞いたことがないところまでさまざまです。私も世界最大手の2社と長年お付き合いし、監査もしていただきました。まず、世界大手は監査報酬がバカ高です。おまけに監査は会社に来て様々な書類を見る現場担当からデータを監査法人内で二重、三重でチェックし実に手間暇がかかる作業になります。とはいえ、決算の発表は一定期限内にしなくてはならず、多くの企業は同じような決算日を抱えていますので監査法人の忙しさはそれこそ官僚が国会に備える時並の状態になります。

ではなぜおまえはそんなバカ高の監査法人と付き合ったのかと言えば国際会計ができるところが少ないのです。日本とアメリカならそれに精通した人は多いのですが、例えば日本とカナダとなればそんな税法や会計法を理解する人など極めて限られるためどうしても国際ネットワークをもつ会計士にお願いしなくてはならないのです。

一方、国内専用の小さな監査法人はサイズ感のみならず、監査のチェック機能が劣ってしまい、監査担当責任者の判断1つになることも間々あるのです。これが逆に言えば穴となるのです。

企業側にも問題はあります。昨今の問題の根源の一つに社内組織の乱れはあります。特定経営幹部の不正やら株主総会でのやり玉、幹部の辞任の後処理問題などはその引き金となりやすい一例でしょう。また企業が大きくなれば子会社、関連会社をたくさん抱えているわけですが、それらが海外にある場合も増えます。海外にある子会社、関連会社を通じたグレーゾーン取引は隠ぺいの手段になりやすいとも言えるのですが、小さな監査法人だとそこまで追えないこともあるのです。

とはいえ、監査をどこまでやるかといえばきりがないのです。よって、私の経験ではある程度の許容範囲はあると認識していますが、そのフレキシビリティが今は狭いということなのでしょう。特に監査法人は一般の株式会社と違い、監査人たちがパートナーとなって組成している組織なので自分の仲間がある企業の監査でお手つきをすれば共同責任となり、全員のおまんまの食い上げにすらなるのです。とすれば監査人たちは「ヤバいぞ、もっと気を引き締めよう」となりやすいということではないでしょうか?

厳しい監査は本来あるべき姿なのですが、今の状態は監査法人の自己防衛にも見えなくはないし、企業の無理な成長がたたったとも言えるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月14日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。