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家計への雇用者報酬以外の正味の分配となる、営業余剰・混合所得(純)について国際比較してみます。
1. 日本の家計の営業余剰・混合所得(純)
この記事では、GDP(付加価値の合計)の分配面のうち、雇用者報酬以外の家計への正味の分配である営業余剰・混合所得(純)について国際比較した結果をご紹介します。
生産された付加価値の合計であるGDPのうち、労働者(家計)への雇用者報酬、政府への生産・輸入品に課される税-補助金が分配され、事業者の手元に残ったのが営業余剰・混合所得(総)です。
更に、営業余剰・混合所得(総)から、固定資産の維持費用で減価償却費に相当する固定資本減耗を差し引いたのが、正味で手元に残る営業余剰・混合所得(純)となります。
事業者は、企業が大半となりますが、家計も雇用者だけでなく事業者としての側面を持っています。
具体的には、持ち家を自分自身に貸して不動産業として営んでいるという面と、個人事業主として事業を営んでいるという面です。
不動産業としての所得が営業余剰、個人事業としての所得が混合所得となります。

図1 営業余剰・混合所得 日本
国民経済計算より
日本の家計の営業余剰・混合所得は、総額(総)でも、固定資本減耗を差し引いた純額(純)でも1990年代以降減少傾向が続いています。
特に個人事業主の減少に伴って混合所得の減少ぶりが大きい事が特徴的です。
2. 1人あたりの推移
今回は、この家計の営業余剰・混合所得(純)について、国際比較をした結果を共有していきたいと思います。
具体的には人口1人あたりのドル換算値(為替レート換算)と対GDP比で比較していきます。
まずは、金額的な水準比較となる人口1人あたりの家計の営業余剰・混合所得(純)の推移から見ていきましょう。

図2 営業余剰・混合所得(純) 1人あたり 家計
OECD Data Explorerより
人口1人あたりの推移を見ると、日本(青)はやや低下傾向が続いていて、他の主要先進国との差は大きく開いている事がわかります。
最新の2023年でも下から2番目のドイツに対して約半分と非常に低い水準で、OECDの平均値に対しても大きく差が開いている事がわかります。
家計としての雇用者報酬外の所得がそれだけ少ないという事になりそうです。
3. 1人あたりの国際比較
続いて、人口1人あたりの水準について、より広い幅で国際比較してみましょう。

図3 営業余剰・混合所得(純) 1人あたり 家計 2023年
OECD Data Explorerより
人口1人あたりの水準を比較してみると、日本は1,615ドルでOECD29か国中26位、G7中最下位です。
下位にノルウェー、スウェーデンと北欧諸国が並ぶのも印象的ですが、日本の水準が非常に低い事が確認できます。
一方で、アメリカの水準が高く日本の6倍程度となります。
家計としての雇用者報酬以外の所得がこれだけ異なるというのはとても重要な相違と言えそうです。
4. 対GDP比の推移
続いて、付加価値の総額(GDP)のうちの内訳となる対GDP比の水準も見ていきましょう。
まずは主要先進国の推移からです。

図4 営業余剰・混合所得(純) 対GDP比 家計
OECD Data Explorerより
対GDP比の推移を見ると、日本(青)は1980年代はアメリカやフランスを上回っていましたが、その後は低下傾向が続いていて、近年では大きく差が開いています。
ドイツは比較的日本と近い水準です。
ドイツは固定資本減耗が非常に高い水準となっていて、差し引かれる減価分が大きいという特徴がありますので、日本とはやや事情が異なる事に注意が必要と思います。
個人事業主の多いイタリアは対GDP比で見るとその傾向が良く表れていますね。
5. 対GDP比の国際比較
最後に対GDP比の国際比較をしてみましょう。

図5 営業余剰・混合所得(純) 対GDP比 家計 2023年
OECD Data Explorerより
対GDP比で国際比較してみると、日本は4.8%とOECD29か国中25位、G7中最下位と先進国の中でも非常に低い水準である事がわかります。
日本より下位は、ルクセンブルク、デンマーク、ノルウェーなど高所得国の代表国ばかりで、1人あたりGDPの大きな国です。
6. 家計の営業余剰・混合所得(純)の特徴
今回は、GDPの分配のうち、雇用者報酬以外の家計の正味の取り分となる営業余剰・混合所得(純)についてご紹介しました。
日本は固定資本減耗が比較的多いという特徴も相まって、営業余剰・混合所得(純)の水準で見ると先進国の中でも非常に少ないという特徴があります。
- 個人事業主が減っていて、個人事業主としての所得水準も低い
- 住宅の資産残高は少ない方だが、固定資本減耗は相対的に多い
上記のような特徴が相まって、純額としての低水準に繋がっているようです。
欧州のように住宅の価値を高めるというよりも、木造が多く減耗が速いので建て替えによってその価値を改めていくといった価値観の違いも影響していそうですね。
また、個人事業主の所得水準が非常に低いのではないかという推測も成り立ちそうですので、今後1人あたりの所得水準についても計算して共有したいと思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。






