ニデックの「不適切会計」の影響が広がっている。
監査法人は同社の有価証券報告書を「意見不表明」とし、東京証券取引所は同社株を「特別注意銘柄」に指定。結果、10月28日の株価は約20%下げ、ストップ安となった。翌日には、格付け機関ムーディーズ・ジャパンが、ニデックの発行体格付けをA3からBaa1に格下げしている。
一連の報道に対する反応は、二分されるのではないか。一つは「まさか」だ。ニデック代表取締役グローバルグループ代表の永守重信氏は、極めて会計に強く、そして厳しい人物だからである。

ニデック公式サイトより
「まさか」の不適切会計
永守氏は、若いころ夜間の専門学校で経理を学んでいる。当初は、自分で仕訳・決算をこなし、創業13年目には財務の専門書『体あたり財務戦略』を執筆するまでに至っている(※)。
※『体あたり財務戦略: 技術ベンチャ-社長が書いた 財務を制するものはベンチャ-を制する』 永守 重信 (著)/ジャティック出版(現在絶版。アマゾンで2万7千円弱の値が付いている)。
「だからものすごく詳しいですよ」。こう自負する永守氏は、今でもCFOや経理部長・財務部長らの不勉強を叱ることがあるという。
買収(M&A)にあたっては、対象企業の在庫評価方法や、設備の耐用年数の違いを補正し、BSを再構築する。ときには、債務超過であることを見抜き、買収先を震え上がらせることもある。その優れた眼力で、これまで75件のM&Aを行い、すべて成功させてきた。赤字企業には、経費を1円単位でチェックする「1円稟議」をルール付けた。
そんな「会計潔癖症」の永守氏率いるニデックが、不適切会計を「恣意的に」行った(疑いがある)ことには、驚きを禁じ得ない。
「またか」の会計ミス
もう一つの反応は「またか」だ。
ニデックはこれまでも誤った会計処理を複数回行っている。
まず、限度を超えた配当である。
23年6月に、ニデックが「分配可能額(配当の限度額)」を超える配当と自社株買いを行っていたことが判明している。外部調査委員による要因分析を要約すると、ニデック社の財務部・経理部の担当役職員は、配当可能限度額について
- 知らない
- 漠然としてしか知らない
- 規制が適用されるとは思わなかった
- 今回の処理と関連付けられなかった
のいずれかであったという。会計に強い永守氏が会長を務める一方、「強くない」役職員たちが実務を担っているという深刻な事態である。
配当を無制限に行うと、債務の返済原資が減り、債権者のリスクが高まってしまう。こうした事態を防ぐため、会社法で定められているのが「分配可能額」だ。可能額を超えてまで株主に配当してしまうとは、株価重視の「ニデックらしい誤り」とも言える。
売上の過大計上
次に、売上の過大計上である。
24年5月に、過去の四半期決算(22年4月~23年10月)に誤りがあったことが判明している。特に、2023年の通期売上は、128億円という巨額の過大計上になっている。ニデックの発表によると
- 組織間でのコミュニケーションが不足していたこと
- 情報の把握及び決算処理に関するモニタリング体制が不十分だったこと
が誤りの原因とされている。ニデックの精神「すぐやる 必ずやる できるまでやる」の「すぐ」を優先したがために、「確認する、調べる」ということが実施されてなかったのではないか。
「お化け」が出た
ニデックの永守氏が、企業買収(M&A)において最も気にするのが「お化け」である。「お化け」とは、「含み損」が隠れている資産のことをいう。買収した後に「含み損」が判明するような事態は防ぎたい。だから念入りにチェックする。「在庫は適切に評価替えされているか?」。「設備の耐用年数が長くなっていないか?」。そして、最後に念押しするのだ。
「『お化け』は出ないでしょうね」と。
皮肉なことに「お化け」が出たのは自社だった。
今回の不適切会計について、ニデックの有価証券報告書には、
「資産に関する『評価減』の時期の恣意的な調整」
と記されている。「評価減」とは、BSの資産額と現在の価額を比べ、低かったらBSの資産額を現在の価額まで減額することをいう。これをやっていないということは「含み損」があるということ。ニデックに「お化けがいる」ということだ。
まずは、第三者委員会を交えたお化け探し。そしてお化け退治だ。不適切な処理を「恣意的」に行ったのは、株価至上主義が遠因ではないか。ハードワークを是とする社風に問題はないか。はたして、現経営陣はゴーストバスターズになれるだろうか。
【参考】
ニデックニュースリリース
『日本電産永守イズムの挑戦』日本経済新聞社編
『永守流経営とお金の原則』永守重信/著
『逆説の日本経済論』斎藤史郎/編著
他






