独メディア、日中の緊迫状況を詳細報道

石破茂前首相が気分を害されるかもしれないが、後任の高市早苗首相が登場して以来、少なくともドイツ語圏のメディアで日本に関連するニュースが増えてきた感じがする。それなりの理由は考えられる。先ず、高市首相が日本で初の女性首相だということだ。それだけで確かにニュースヴァリューはある。そのうえ、欧州の政界で右派傾向が席捲してきていることもあってか、「安倍晋三元首相の継承者、ナショナリストの女性首相」という日本からの報道に惹かれ、欧州のメディアの関心は高まってきている。

日中首脳会談 内閣広報室から 2025年10月31日

欧州のメディアで日本関連記事が増えてきた、と最初に感じたのは熊の出没に関連するニュースだ。欧州では熊の出没はあまり聞かないが、オオカミが出てきて家畜を襲撃したといったニュースは時たま報じられてきた。そういうこともあってか、日本の一連の熊騒動は欧州メディアの目に止まったのだろう。日本の熊出没を写真つきで報じるメディアも出てきた。

参考までに、オーストリア国営放送(ORF)は先月末、ウィーン天然資源応用生命科学大学(BOKU)が農業省の委託を受け、オーストリアにおけるオオカミの紛争リスクに関する初の調査を実施したと報道していた。同調査内容は熊の出没に苦慮する日本にも役立つものだった(「オオカミの生息保護と人と家畜の安全問題」2025年11月02日参照)。

オオカミの生息保護と人や家畜の安全問題
日本では熊が人が住んでいる居住地に出現し、これまでに12人が熊の襲撃で犠牲となったという。当方が住むオーストリアではオオカミが家畜を襲撃するケースが報告されている。オオカミをめぐる議論は、しばしば激しい議論を巻き起こす。オオカミの生息地の保...

熊の出没報道に次いで、日中間の不和問題が飛び込んできた。ドイツ民間放送ニュース専門局NTVやORFは16日、「中国と日本の関係が緊迫」といった見出しでそのウェブサイトで大きく速報している。これまでは日本関連のニュースは主にロイター通信やAFP通信からの外電をそのまま掲載することが多かったが、独自の解説記事も出てきている。

16日のNTVウェブサイトの記事からその一部を報道する。
「中国海警局が日本の領海に侵入」という見出しで、「日本の首相が国会で『中国が台湾を攻撃した場合、軍事介入の用意がある』と警告したことを受け、中国はこれを挑発行為とみなし、渡航警告に続き、東京が実効支配する尖閣諸島の海域に海警局を派遣し、緊張をさらに高めている。中国海警局は、この哨戒活動は『権利の行使』と説明した」と報じている。

両国間の対立の直接の契機となった、「台湾の有事の場合」、日本は「存立危機」と受け取り、日本が軍事的対応を行う可能性を排除しなかった高市首相の発言の背景にも言及している。

高市首相の発言に対し、大阪駐在の中国総領事は「頭を出す者は切り落とされる」と発言し、日本政府は正式に抗議した。北京側は高市首相発言の撤回を要求し、2年以上ぶりに駐日大使を召喚した。14日には、中国は自国民に対し日本への渡航を控えるよう警告し、その後、中国の航空会社3社が無料キャンセルを申し出た、といった一連の動きを詳細に報じた。

そして「台湾国防部は16日朝、過去24時間以内に台湾周辺の空域と海域に中国軍機30機と海軍艦艇7隻が軍事活動を行ったと報告した。台北はこれを北京による継続的な軍事圧力作戦だとしている。中国と日本は長年、日本が実効支配する島嶼(北京では釣魚島、東京では尖閣諸島)をめぐって争っている。これまで日本の政治家は、このような状況下で台湾について公に言及することを避けてきた」と説明している。

一方、ORFは時事通信や共同通信の記事を参考に、「中国国民は日本の観光業にとって重要」という小見出しをつけ、「中国国際航空を含む複数の中国の航空会社は、乗客が日本行きのフライトをキャンセルした場合、全額払い戻しを行うと発表した。この措置は12月31日まで有効。日本観光庁の最新データによると、今年日本を訪れた外国人観光客のうち、最も多くの割合を占めているのは中国国民だ」と報じている。

ORFはまた、「中国は米国にも怒りの矛先を向けている」と指摘、「米国は13日、台湾へ3億3000万ドル相当の戦闘機用スペアパーツを売却した。この売却は、台湾のF-16戦闘機とC-130戦闘機の運用態勢維持を目的としている。中国政府はこの武器取引に激しい反発を示した。『台湾問題は中国の核心的利益の中核であり、米中関係において越えてはならない第1のレッドラインだ』と、14日、北京で中国外務省の林建報道官が述べた」と伝えている。

NTVやORFの記事は長く、詳細だ。日本関連でこのような長文の記事は久しぶりだ。アジアを代表する中国と日本2国間の緊迫状況について、欧州も強い関心を注いでフォローしていることが分かる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。