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(前回:高市政権“積極財政”がもたらすマクロ経済と不動産市場の転換点)
キャッシュリッチ層とレバレッジ層、明暗を分ける“構造的分岐点”を読む
2024年以降のマクロ環境は、これまでの「超低金利前提」の不動産市場と明確に断絶しつつある。高市政権への移行後、財政拡大の姿勢がより明確になり、市場では長期金利の上昇期待が一段と高まっている。建築費・人件費・物流コストなどの物価上昇も続いており、投資家は“構造的な環境変化”への適応を迫られている。
このような局面では、投資家のポジショニングが将来の収益性に大きく影響する。特に「キャッシュリッチ層」と「レバレッジ層」の間で、同じ物件を購入しても“得られる成果の非対称性”が一気に拡大する可能性があることに留意が必要である。
1. 金利上昇は「投資家の階層構造」を露呈する
金利上昇局面では、借入依存度によって投資家の立場が大きく変わる。
① キャッシュリッチ層(自己資本比率が高い投資家)
- 金利上昇の影響は限定的
- 購入余力が高まる(競合減少)
- 「逆張り」「長期保有」「再生・再編型」投資が有利に働く
- 資産を守りながら拡大できるタイミング
→ 金利上昇はむしろ“チャンス”に変わる局面
② レバレッジ層(借入比率が高い投資家)
- 負債価値比率(LTV)上昇により銀行の融資審査姿勢は厳格化
- 借換リスク、債務償還余裕率(DSCR)悪化という“ダブルパンチ”
- 追加担保・返済条件の悪化が起こる
- キャッシュフローが逼迫すると保有戦略が崩れる可能性
→ 金利上昇は“防御・整理・選択”が必須となる局面
つまり、金利上昇は投資家を「攻められる人」と「守るべき人」に分岐させる。従来のように“誰でも融資が出れば買える”市場環境は終わり、これからは自己の財務状況によってリスク回避方法や投資戦略を選択する必要が出てくる。
2. 明暗を分ける3つのポイント
金利上昇下で成果に差が出る本質的な要因は以下の3点である。
① 自己資本比率
購入時や借り換え時の融資条件に直結し、自己資金の厚みが交渉力を左右する。
② 金利上昇のリスク耐力の高いキャッシュフロー構造
- 築古 ⇒ 修繕費増
- 借入 ⇒ 金利負担増
この“負債コスト”の増大に耐え得るキャッシュフロー構造が求められる。
③ 資産ポートフォリオの分散・再編の余力
オフィス・工場・遊休地・賃貸住宅……
保有資産のバランス(ポートフォリオ)を見直すことで、金利・価格等の変動リスクを低減・安定化させることが可能。
3. 金利上昇下での「推奨ポジショニング戦略」
投資家を3タイプに分類し、それぞれ取るべき具体的戦略を示す。
タイプA:キャッシュリッチ層(純資産10~50億、自己資本比率50%以上)
推奨戦略:選別的かつ“攻め”の拡大
- 割安市場を狙った組み換え投資(中古再生)
- 都市部の優良築古の取得(修繕リスク>価格調整で逆に有利)
- 収益性改善を前提とした投資戦略の再構築
- 相続・事業承継を見据えた“保有ストックの最適化”
→ 金利上昇は、優良物件を静かに拾う絶好機。
タイプB:ミドルレンジ(資産3〜10億、LTV40~60%台)
推奨戦略:守りを固めながら“次の打ち手”を準備する
- 借入金利の固定化や借り換え交渉
- 修繕計画・空室対策の見直し(特に築20年前後)
- 遊休地・社宅・工場跡地などの潜在資産の再活用
- 相続・事業承継リスクを踏まえた出口戦略(持つ・動かす・組み替える)
→ 現状維持に偏るとリスク拡大。小さな改善が後の“差”を作る。
タイプC:レバレッジ依存層(LTV70%以上)
推奨戦略:負債コストの抑制と“耐久性の確保”が最優先
- 金利上昇を想定した債務償還余裕率(DSCR)改善(売却・返済・資産圧縮)
- このタイミングでの追加借入は慎重に
- 収益改善・支出見直しに全リソースを投入
- 保有資産の中で“価値が落ちにくい物件”の選別
→ 守りを固めつつ、将来の再出発を図る局面。
4. 今後の市場を読む上での“4つの前提条件”
① 金利は「緩やかな上昇」が続く可能性が高い
高市政権は構造改革よりも需要刺激を優先する可能性が高い。財政支出が続けば、長期金利は上方向に張り付きやすい。
② 賃料の“底上げ基調”は数年続く
- 日本全体では人口減でも、都市部では人口流入
- 建築費高が新築供給を抑制
- インフレ環境は賃料上振れ圧力を後押し
③ 地価は“二極化した上昇”へ
- 主要都市・駅近は上昇基調
- 郊外は選別が加速
- 工場・倉庫は再評価が続く(製造業回帰)
④ 外国人投資家の「日本回帰」が本格化
円安+海外株式の上昇による流動性増加は、日本不動産の投資妙味を高める。
結論:投資家は「3つの軸」で戦略を選ぶべき
結論として、数億〜数十億規模の個人・法人投資家が取るべき方向性は、次の3つに要約される。
① 財務余力に応じて“攻めと守りの配分”を決める
無理な拡大は不要。
ただし財務余力がある投資家は、今後3年が“仕込み期”となる。
② 保有資産を棚卸し、投資戦略を明確化する
自社が保有する工場・倉庫・社宅・遊休土地などの潜在価値を評価し、事業 × 不動産 × 財務の三位一体でCRE戦略を検討する。
③ 相続・事業承継を投資判断と一体化させる
今後20年間の保有資産の収益性と、「誰が継ぎ、どう分配するか」が投資成否を大きく左右する。
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次回(第3回)は、「2025〜2030年の“勝ち筋エリア”と不動産タイプ別の投資判断」を扱い、ポートフォリオ構築の具体論を示します。






