トランプ大統領の気変わりぶりに今更驚いてはいけないのですが、ウクライナ問題についてトランプ氏の右往左往ぶりは漫才のようなものだと思います。全く一貫性がなく、浮ついた時々の情報に基づき、「勝ち馬に乗る」スタンスを続けてきました。勝ち馬便乗方針の真の理由はトランプ氏にとってどちらがどうなろうが真の意味では興味がなく、アメリカがその結果に対してどう誇れるか、どう経済的便益を得られるか、そしてトランプ氏自身がどう注目され、ヒーローとなるか、それだけが興味なのでしょう。
2025年9月23日 ニューヨークの国連でトランプ大統領と会談したゼレンスキー大統領 ウクライナ大統領府公式サイトから
ウクライナ問題が急激に展開しそうです。トランプ氏はゼレンスキー氏に11月27日までアメリカが提示する28項目の和平提案の条件を飲むか飲まないか判断を示せ、と迫りました。その条件は後述しますが、ほとんどがプーチンが大喜びする内容であります。そしてその期限、27日(木曜日)はアメリカの感謝祭の日そのもの。感謝祭は収穫を祝い、家族が集う集まりで今やクリスマスを凌ぐイベントになりつつあります。私から見ればトランプ氏の食卓に上るターキーはウクライナなのかと思えてしまうのです。
ゼレンスキー氏はトランプ氏のこの要求に「われわれの歴史上、最も困難な時だ。国家の尊厳を失うか、重要なパートナーを失うか、難しい選択を迫られている」(NHK)と述べています。カナダの報道を見てもゼレンスキー氏の表情は今までの情熱的で前向きで負けない気力ある雰囲気から一転し困惑と失望のどん底に突き落とされた感が見て取れます。つまり今回のアメリカからの提示は本気であり、究極の判断を迫られているということでしょう。
ではなぜこのタイミングだったのでしょうか?複合的です。まず戦況が全般的にウクライナ不利です。
次いで巡航ミサイル「トマホーク」の供与が取りざたされましたが、アメリカの国内事情によりその可能性がすぐに消えたことがあります。理由はアメリカの「在庫問題」もありますが、その強烈な武器の影響力、ウクライナで使用される準備の際の武器情報漏洩のリスクもあるでしょう。プーチン氏との会談の結果ともされます。つまりウクライナにとっては核武装に変わるほどの効果すら考えれたのにそれをアメリカは受けなかったのです。
3つめはウクライナの国内汚職問題です。戦争が始まる前から世界で最も汚職が酷い国の一つとされていた同国ですが、今回は国営原子力企業を巡る巨額汚職事件で判明している賄賂だけで1億㌦(150億円)とされ、閣僚2名が解任された上に野党から内閣総辞職を迫られています。ウクライナを支援する諸外国も「俺の国の支援はちゃんと活用されているのか」と懐疑的にならざるを得ないのです。気持ちの上ではゼレンスキー氏を応援するけど実態面でどうなのよ」というところなのでしょう。
4つ目はトランプ氏の事情です。トランプ氏の目だった功績が少ない、そして支持率も悪いことがあります。更に年内には関税を巡る最高裁の判断が下る可能性がありますが、現状負ける公算の方が高いとされます。となれば中間選挙に向け「ヤバい状態」であり、トランプ氏が焦っているということであります。
では突き付けた28項目。これを見て日本が戦時中中国に突き付けた対華21か条要求がふと頭をよぎったのは私だけでしょうか?ちなみにその時の要求は16が通っています。トランプ氏の「対ウクライナ28か条要求」は熾烈です。ドンバス地方割譲、ウクライナ軍縮小、NATO加盟断念の憲法記載、対ロシア制裁解除、ロシアのサミット再加盟(G8に)などなど。当然、ゼレンスキー氏はNOと言っていますが、トランプ氏は「お好きにどうぞ」という姿勢です。欧州勢はたまたまG20が開催されていたこともあり、善後策を協議しており、週明けも会談や調整が続くとみられますが、今回は先行きはかなり厳しいかもしれません。
欧州だけではウクライナを救えません。今回短時間で出来るのはトランプ氏の考えを変えるべく説得作業だけですが、それには十分な論理的な説得力が必要です。個人的には欧州各国は歴史的にも地政学的にも潜在的にもロシアとのつながりは深く、切れないものがあり、こんな形の戦争終結を絶対に嫌とは思わないグループもあるのです。そもそもアメリカの支援無くしてウクライナは戦争すらできないわけで、戦争自体、アメリカの意向次第の中、この和平調停もアメリカのボイスは明らかに押し込む力があると言えます。
私の予想ですが、この28か条要求をベースに個々、討議され、これが20になるのか、10になるのかわかりませんが、最終的な落としどころをロシア側と短い期限を切って交渉するのではないかと思います。交渉期間が長くなるとロシアが一気呵成に攻め、ウクライナが墜ちてしまうリスクはあります。先の大戦で玉音放送の後もソ連が日本を攻めたのと同じです。それ以上に長引けばゼレンスキー氏の精神力が相当弱気になり、戦意が続かない気がします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月24日の記事より転載させていただきました。