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日本の不動産市場は2025年現在、従来の「低金利前提」から大きく転換し、インフレ・金利上昇・都市集中の3つが重なる“新しい局面”に入っている。高市政権による積極財政や賃上げ政策も相まって、長期金利の上昇や建築費・物価の高止まりが続き、投資戦略にも構造的な変化が求められている。
今後の不動産市場における「勝ち筋エリア」を考えるには、まずこの3つのメガトレンドを正しく理解する必要がある。
1. 人口減少下でも強まる「都市集中」
日本の総人口は減少しているが、大都市中心部では逆の動きが続いている。大都市(東京・名古屋・大阪)に加え、札幌・仙台・広島・福岡などの中核都市では、近年も中心部の人口が増加し、地価も上昇基調が続く。
とくに福岡市では、すべての区で人口が増えるという全国的にも珍しい構造が続き、地価も10年以上上昇を継続。東京23区でも20〜40代の回帰が見られ、レジデンス需要は依然として強い。
これらの動きは、「人口減少=不動産市場の弱体化」ではなく、“人口の再配分”による格差拡大が進む時代に入ったことを示しているといえるだろう。
2025〜2030年の投資判断では、人口増加が続く「都市中心部」と「それ以外」という二極化がより鮮明になる。
2. 建築費・物価の上昇:“既存ストックの価値” が相対的に高まる
建築費の上昇も、投資判断を大きく左右する要素だ。建設工事費デフレーターは2010年代の底から長期上昇を続け、近年は当時と比べて20%前後高い水準で推移。資材価格・人件費・エネルギーコストの高止まり、さらにZEB化など環境規制対応も重なり、新築供給の採算は厳しさが増している。
これは裏を返せば、「同じものを建てるコストが上がった=既存ストックの価値が相対的に上がる」という構図にあるといえる。
とくに次のカテゴリーは、今後5年で再評価が進む可能性が高い。
- 立地の良い 築20年前後の中古レジデンス
- 構造がしっかりした 築古オフィス(都心部)
- 用途の自由度が高い 駅近土地・工業用地
“新築偏重”の時代は終わり、「良い立地 × 良い中古」が投資の中核になる。
3. 金利・財政・地価:「金利上昇=価格下落」の単純構図ではない
長期金利はすでに令和2年5月に最後につけたマイナス金利から反転し、直近では1.6%台で推移する局面が出てきた。今後も財政支出・物価動向によっては緩やかな金利上昇が続く可能性がある。
しかし注目すべきは、金利が上昇しても都市部の地価は3年連続で上昇しているという点だ。これは、
- インバウンド・商業需要の回復
- 都心レジデンス需要の強さ
- 物流・工業用地の堅調な企業需要
- 円安に伴う海外投資資金の流入
などが支えている。
つまり2025〜2030年は、“金利は上がるが、良い資産には資金が集まり続ける”という二極化がさらに拡大するフェーズに入るだろう。
金利上昇期こそ、“良い物件・立地”の鑑識眼が投資成否を決める。
【まとめ】2025〜2030年の投資戦略を左右する三つの潮流
- 人口は減っても都市中心部は強い。
- 建築費の上昇で、既存ストックの価値が相対的に高まる。
- 金利上昇でも、良い物件・良い立地には資金が流れ続ける=価値は上昇する。
この3つのメガトレンドを理解すれば、次回扱う「勝ち筋エリア」「用途別の投資判断」は一貫性をもって整理できるだろう。
次回(後編)では、
- レジデンス
- 物流・工場
- オフィス
- ホテル
- 土地
といった用途ごとの“投資判断の軸”を、具体的なエリアを例示しながら読み解いていきたい。
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