流行語大賞「働いて×5」の解釈

「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」が流行語大賞を取りました。発言当時は賛否を含め、いろいろな意見がありましたが、その意味合いをどうとらえるか、一歩踏み込んで考察してみたいと思います。

正直申し上げると総理大臣になればほぼ誰でも「働いてx5」になります。24時間臨戦状態、国際電話で重要な交渉相手先とのやり取りは時差や先方の都合もあり、待機を含め、休む時間すらありません。その首相を支える秘書官たちは更にその2倍ぐらい時間的に忙しいわけで、その言葉尻だけを取って違和感があるとは思っていません。

高市首相 自民党HPより

私どもがこの週末にアニメ書籍販売で出店したイベントではたまたまテーブルが部屋の最も奥だったこともあり人の動きが良くうかがえたのですが、何年も出店し続けた中でこれほどの混雑は初めてでした。私は「バンクーバーが浅草寺状態!」と思わずつぶやくほどで窓の外には入場を待つ人で長蛇の列。ここまで込み合うとゆっくり買い物を楽しむという形にならないのですが、目の前には商品を見たい客が行列をなす状態となれば「働いてx5」状態にならざるを得ないのです。閉会後、いろいろなベンダーさんにどうだった?と声をかけると売り切れ続出で皆さん嬉しい悲鳴を上げていました。きっと心地よい疲れだったと思います。

働くとは自分が動かねばいけない状態になることでその充実感は濃密になります。以前、私は「仕事は質x長さ」と申し上げたことあります。一日に14時間働いてもそれがだらだらしたものでイヤイヤ仕事なら効率も能率も仕事の出来もイマイチになってしまいます。

当地のショッピングモールである店舗に入ったところ、入り口付近で3人の店員が談笑しています。私が入っても「Hi!」とも何とも言いません。一人で中を5-6分みて出ようとしたときその3人はまだくっちゃべっており、私に目線すら合わせません。他にももちろん客はいました。こういうスタッフは「働かなくてx5」なんですね。盗難防止の役にすら立つのかわからず、監視カメラでもおいていた方がまだ役に立つレベルになってしまうのです。

ひと昔前、まだタバコを吸う人が多かった時代に1時間ごとにタバコを吸いに外に出る人がいました。(部屋では吸えなくなった時代です。)一度行くとエレベーターで降りる、吸う、ぼっとする、エレベーターで昇ってくるで概ね10分。これを1日に6回やればこれで1時間です。8時間労働なのにこの人は7時間の拘束時間ではないか、と不満をぶつぶつ言っていた人がいました。

バブルの頃の栄養ドリンク、リゲインのコマーシャルは「24時間働けますか?」でした。あのCMはその後強烈な批判と共に消え去ったわけですがたぶん、多くは勘違いをしている気がします。24時間ぶっ続けで働くのは非常に困難なタスクで、実際には夜中でも緊急時は対応するという意味だと解釈しています。

例えば為替のトレーダーは24時間対応の典型的な職種で大手、金融機関のトレーダーなら3年が限界とされます。それこそ心身ボロボロになるほど張り詰める仕事であります。あるいは国会が開催中は官僚はその質問の答えづくりと待機で超長時間勤務とされます。新聞社の電気は消えることがないとされるほどマスコミも激務です。警察も捜査本部が立ち上がれば長時間勤務は当たり前です。

更に物理的に24時間勤務の業種もあります。救急病院の担当医などはその典型でしょう。私の知っている人はホテルでの仕事で24時間連続勤務で24時間連続休みという就労形態です。あるいは当地の海上保安庁に勤めていた元部下は1か月連続勤務、2か月休みといった具合です。確かに1日24時間のうち8時間勤務なら1/3を就労時間に充てているのでそういう働き方もあるのでしょう。本人に「その勤務体系、楽しいか?」と聞いたら初めの頃は「海外旅行に行けていいです!」と言っていましたが、まさか、休みの度に行くほど金が続くわけがなく、結局海上保安庁を辞めてしまいました。

「働く」を強調しすぎると批判が来るし、若者は「ワークライフバランス」というわけです。では私も含め、働くことが主体の人にとってワークライフバランスは悪いのか、というと私自身は真逆で絶妙のバランスだと考えています。理由は簡単で24時間のうち、ごくわずかな自分の時間を有効に活用しないと楽しいことを達成できないのでライフの効率化を上げざるを得ないのです。

いわゆるタイパを自分の楽しみの方に適用するのですね。例えば酒を飲んでもダラダラ飲まない、ハイキングをするには直角に上がるような山に行き、1時間完全燃焼してさっさと帰る、年間50冊の本を読むために記録を取りながら読書スピードの配分をする…といった具合。これを長年続けていると行動にムラがなく、24時間を濃密に過ごすことができます。生活がやや淡白になるのが弱点ではありますが。

とすれば私は「働いて、働いて、働いて、楽しんで、楽しんで」が本質だと思います。重要なのはぎゅっと押し込んで時間に貪欲になることかな、と思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月3日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。