トランプ政権は新たな国家安全保障戦略(NSS)を公表し、その中心に「西半球の最優先化」を据えた。公開された文書は、米国の主要な国益を明確に列挙しながら、従来の外交方針を大幅に再配置する内容となっている。特に「モンロー主義」への回帰を彷彿とさせる強硬な地域戦略が打ち出され、米国の対外政策の重心が再び米州へシフトすることを示唆した。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
西半球を最重要地域に—「トランプ版モンロー主義」を明言
今回の戦略の柱は、「西半球の安定と安全の確保こそが米国の最優先事項である」という点である。文書では、
- 大規模移民の抑止
- 中南米政府との協力による麻薬カルテル・犯罪組織への対処
- 敵対勢力による重要資産の買収・浸透の防止
- 重要サプライチェーンの保護
などが挙げられ、「トランプ版コロラリー(補論)をモンロー主義に付け加える」と記されている。
これは、2017年版 NSS が「主権」「国境の安全保障」を重視しつつも、地政学的な重点をグローバルに分散させていたのとは対照的である。
インド太平洋・欧州・中東:戦略的関与は継続するが“限定的”
新戦略は西半球優先の一方、他地域についても次のような米国の基本的利益を列挙している。
- インド太平洋:自由で開かれた海域、重要鉱物・サプライチェーンの確保
- 欧州:同盟国の安全保障を支援しつつ「欧州の文明的自信」を回復させること
- 中東:敵対勢力による支配やエネルギー資源の独占を防ぎつつ、「永遠の戦争」から離脱する
これらの要素は2017年 NSS の「大国間競争の復活」というフレームと重なる部分もあるが、今回の文書は米国の関与を「限定的かつ選択的」にする姿勢がより強い。特に中東に関しては、2017年版がテロ対策とイラン封じ込めを強調したのに対し、「大規模介入の回避」を前面に押し出す点が特徴的である。
技術覇権の維持は継続的な最優先課題
AI、バイオテクノロジー、量子分野など戦略技術については、「世界を前進させるのは米国の技術でなければならない」と明言し、2017年版 NSS が掲げた「アメリカの革新力の強化」をさらに明確に押し出している。
総括:2017年版との比較で浮かぶ“地域優先順位の転換”
2017年版 NSS は、
- 大国間競争(中国・ロシア)
- アメリカの国境・主権の防衛
- 民主的価値の擁護
を軸に、米国の世界的リーダーシップ維持を狙う「包括的グローバル戦略」であった。
対して今回の戦略は、
- 西半球を他地域に優先する地域主義的アプローチ
- 介入よりも国内へのリスク流入を防ぐ防御的姿勢
- 価値よりも国益・サプライチェーン・国境管理を中心に据える実利主義
が際立つ。
トランプ政権が掲げる新国家安全保障戦略は、米国の外交を「再び米州中心へ」と引き戻す大きな方向転換として位置づけられることになるだろう。






