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台湾情勢が緊張を高めるなか、日本が直面するリスクは「台湾の問題」にとどまらない。中国の海洋進出、尖閣諸島をめぐる既成事実化、そして日本経済を支えるシーレーンへの圧力は、国家の存立そのものに関わる重大な脅威である。
本稿では、日本が取るべき戦略的対応を整理し、高市首相答弁の本質を改めて位置づける。
1. 背景と問題認識:複合的に深まる脅威
中国の「グレーゾーン戦術」は尖閣諸島(沖縄県)の領有権主張を具体化し、過去30年以上にわたり領海侵入や軍事演習を常態化させている。これは単なる領土紛争ではなく、日本の経済安全保障と国民生活に直結する複合的危機である。
台湾有事は同時多発的に発生しうる
台湾有事は、軍事的に極めて難しい台湾本島への上陸作戦だけでなく、次の二つのシナリオが現実的に想定される。
- 日本の生命線であるシーレーンの海上封鎖
- 防衛が手薄な尖閣諸島の先行・同時占領
尖閣は「低コストで高効果」の戦略目標
尖閣諸島は無人島で防衛が難しく、東シナ海の海底資源・漁業資源の独占も可能であるため、中国にとって割の良い攻略目標となる。
日本経済への甚大な影響
日本の輸入エネルギーの約9割、貿易貨物の大半が南西諸島沖のシーレーンを通過している。この海域が封鎖されれば、日本経済は即時に機能不全に陥る。
(日本経済研究センター試算〔2025年〕では、台湾海峡が1か月封鎖されればGDPが最大▲5%縮小。)
(国際エネルギー機関〔IEA, 2025年報告〕によれば、日本のLNG輸入の約40%が台湾海峡経由であり、封鎖時には即座にエネルギー供給危機が発生するとされる。)
国際法が示す日本の正当性
- UNCLOS第87条:公海における「航行の自由」を保障
- UNCLOS第2条:沿岸国の主権は領海に及ぶ
- 国連憲章第51条:武力攻撃発生時の個別的・集団的自衛権を承認
- ICJ判例:領有権の根拠として「実効支配の継続」を重視。日本の行政・警備活動は正当性を裏付ける。
2. 高市答弁の本質:守るべきは日本の領土と経済安全保障
高市首相の国会答弁は「台湾防衛のための共同参戦」を意味するものではなく、日本の存立と国民生活を守るための戦略的対応である。
集団的自衛権は正当な行使
海上封鎖や尖閣占領は「存立危機事態」に該当し得る。米国と共同作戦を行うことは国連憲章第51条に基づき、国際法上も完全に正当である。
抑止力こそ最大の防衛
米国と連携し、断固とした対応意思を示すことは中国に対する最も強力な抑止力になる。開戦が起きるとすれば、それは日本ではなく中国の判断によるものだ。
誤解は中国の思惑に沿うだけ
「台湾のために日本が戦う」という誤解は中国の分断工作に利用される。高市首相が示したのは、日本の危機管理と戦略的防衛の姿勢である。
3. 海上封鎖と尖閣占領:現実味を帯びる複合的脅威
シーレーン封鎖の衝撃
日本の貿易・エネルギー輸送の9割以上が海上輸送に依存している。封鎖が起これば日本経済は即座に停止する。米国が「航行の自由」を守るため行動し、日本が集団的自衛権を行使するのは自然な対応である。
尖閣占領は“時間との勝負”
中国は尖閣国有化以前から領有権を主張し、海警局船舶の領海侵入は2024年に355日連続という異常事態となった(米国防総省報告〔2025年秋〕は、中国海軍が海警局と連携し、尖閣周辺で「グレーゾーン戦術」を強化していると指摘)。
報道・分析が示す危機感
- 産経新聞:台湾有事は「日本有事」、尖閣侵奪の可能性を指摘
- 高市首相:台湾有事は存立危機事態になり得ると明言
- 独立系論評:海警局船舶355日連続接近を問題視
- NOVAIST:台湾国防部長が「侵入すれば対応」と警告
- MSN:高市発言後、中国が尖閣周辺での領海侵入を強化
南シナ海の“既成事実化”は尖閣でも起こり得る
中国はフィリピン周辺で人工島を建設し軍事拠点化を既成事実化した。同じプロセスで尖閣の支配を固め、国際社会の対応を封じる可能性が高い。
米国への尖閣防衛懇願の歴史
日本政府は1990年代のモンデール駐日大使時代から尖閣防衛を米国に繰り返し要請してきた。さらに1970年代後半には、尖閣周辺で米海軍が海底資源を発見したことを受け、外務省が米国に「尖閣防衛の明確化」を求めた記録もある。これらは、尖閣防衛が日米外交の一貫した懸案であったことを示している。
4. 結論:必要なのは「現実を直視した危機管理」
高市答弁の本質は台湾防衛ではなく、日本の存立と繁栄を守ることである。
日本が取るべき戦略的結論
- 海上封鎖や尖閣占領は日本の国益を直撃する現実的リスク
- 米国との同盟強化こそ中国への最大の抑止力
- 情緒的批判や誤解は危機管理論議を混乱させ、有害である
台湾有事とは、日本自身の問題である。問われているのは「台湾をどう守るか」ではなく、日本国と日本人の生命線をどう守るかである。