中国は「高市発言」を口実に日本を先制攻撃できない

衆院予算委員会で答弁する高市首相
自民党HPより

「高市発言」の影響

11月7日衆議院予算委員会での「台湾有事は集団的自衛権行使の存立危機事態となり得る」との「高市発言」に対して中国は激しく反発し、発言の撤回を求めるとともに、中国国民の日本への事実上の渡航禁止などの対抗措置を取っている。

中国問題に詳しいキャノングローバル研究所上席研究員峯村健司氏によれば、「高市発言」の撤回が無ければ、中国はさらに強硬な対抗措置を取る可能性が有り、米軍基地がある沖縄への武力攻撃もあり得るという。

中国による先制攻撃の可能性

しかし、「高市発言」を中国への宣戦布告とみなして中国が日本に対して先制攻撃を行う可能性は極めて低いと考える。なぜなら、「高市発言」はあくまでも中国による台湾武力攻撃を前提とするものであり、武力攻撃を前提としない日本の中国に対する先制攻撃を主張するものではないからである。

のみならず、中国の日本への先制攻撃は日米安保条約5条に定める米国の「共同防衛義務」規定に該当し、在日米軍による中国への反撃を招く可能性が極めて高いからである。

「共同防衛義務」の発動は米国議会の承認が必要であるが、核保有国中国を恐れるあまり同盟国日本への先制攻撃を黙認すれば日米同盟関係は破綻し、米韓同盟・米豪同盟・米加同盟、NATO諸国等への影響は計り知れないからである。

在日米軍と自衛隊の抑止力

この問題で重要なのは「在日米軍基地」の存在である。ロシアから侵略されたウクライナは米国と同盟関係はなく米軍基地もない。米国の援助は、ウクライナが核を放棄した際の「ブタペスト覚書」に基づくものと考えられるが、日本の場合に比べると強固とは言えないであろう。

これに対し、在日米軍基地は沖縄県の嘉手納、普天間、山口県の岩国、神奈川県の横須賀、東京都の横田などに存在し、数万人の米軍が日本を含む極東の平和と安全の確保に従事しているのであり、ウクライナとは状況が根本的に異なると言えよう。

したがって、「高市発言」を口実とする中国による日本への長射程弾道ミサイル等による先制攻撃は、在日米軍の反撃を招く可能性が極めて高いから、その可能性は極めて低いというべきである。

加えて、20数万人の陸、海、空の日本自衛隊のイージス艦やパックスリーによるミサイル迎撃能力は高く、さらに整備しつつある長射程ミサイルによる反撃能力も有しているから、在日米軍と日本自衛隊による対中抑止力及び対処力は万全であり、中国による日本に対する「高市発言」を口実とする先制攻撃の可能性は極めて低いというべきである。