アメリカやカナダは移民を絞ることで国内の雇用環境を改善する政策を続けています。カナダの場合、10月の失業率が0.2%、11月の失業率が0.4%も改善し、報道のトーンは移民を抑制した政策が結果につながったという感じです。
ただ、私は素直には喜べないのです。果たして雇用が拡大した理由は本当に企業の成長に伴うものなのかはなはだ疑問だからです。カナダではトランプ関税が35%かかっており一部の業界では対応が追い付かず、お手上げ状態であって雇用が改善する潜在性はありません。ならばなぜ改善しているかといえば外国人労働者が減り、その分、長く職を求めていた人にチャンスが巡って来た流れかと思います。
ではその仕事のクオリティはどうなのか、といえば私は何とも言えない水準だと考えています。悪い言い方をすると労働意欲とは生活を維持するために必死になって食らいつくことなのですが、最近雇用チャンスが巡ってきた人に同様の貪欲さがあるかは判断に苦しむのです。
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私は業務で様々なシーンに出くわしていますが、職探しをする方々に必ずしも機敏さがあるわけではありません。また非常に細かいジョブディスクリプション(業務範疇)が設定され、オーソリゼーション(仕事の判断権)の制限はかつて以上となり、それが企業のシステムに組み込まれてしまっているため、あるところまで作業をすると「ここから先に進むにはBOSSの承認を得よ」と出てしまうわけです。すると一つのことを完遂するのに何度もBOSSにお伺いを立てなくてはならず、傍から見ていると「BOSSがそのままやればよいのに」と思うこともあります。先日、銀行窓口である作業依頼をした際には全部で2時間、その間BOSSが5、6回承認プロセスのためにやってきているのです。
なぜそこまで細かくしなくてはならないのかといえば作業を「信用できない」のでありましょう。もちろん、コンプラも含め、世の中自体が複雑になったこともあります。当然ながら新人さんはそれらをOJT(On the Job Training)でこなすにもすべての業務機会に巡り合うかは偶然性があり、へたをすると覚えるべき業務上のケースを未経験のまま通り過ぎてずいぶん時間が経ってから「あれ、これ、俺、やったことない」という話も出てくるのです。
最近耳にするのが「ずっと適正に処理されていなかった」というトラブルでそれも10年、20年というスパンになり、今更それを言われてもどうなの、というケースが何度も出ているのです。それが判明する理由は新人さんがルールブックに基づき、丹念に作業をしている間に「あれ、何か違うぞ」でBOSSに確認すると「なんじゃこれ?」という話になるわけです。
我々はいちいちこんなことに付き合ってられないので私の防衛策は出来る限り自分たちでやるようにしています。あるいは絶対的信用が於ける取引先相手の担当者を掴むこと。これは取引先相手の会社を選ぶのではなく、その会社の特定の担当者を指名するのです。なぜかといえば新人や新しい担当者がくればまたゼロからプロセスするので間違いも多く、手間もかかり、その手間賃が請求に上乗せされるからです。「この作業、前回と全く同じなのになんで時間数がこれだけ増えて請求額が増えているの?」とクレームしても「かかったものは仕方がない」で一歩も引きません。最近では私のスタッフはその専門家の携帯に直接電話してやり方をなんとなく聞き出し、自分で作業してしまうこともあります。もちろん請求は来ません。
労働の質が下がるとコストが膨大になりやすくなります。建設業界では「下手料」とよく言うのですが、ベテランが作業すれば一発で終わる作業が非熟練者がやると必ず、やり直し作業がでるもので、そのやり直しコストも平然とクライアントに請求するわけです。私のように目が良いと「これ違うんじゃない?あなたの従業員の質の問題を私に押し付けないでくれる?」と突っ返してしまうのですが、大手企業の従業員や役所になるとそんなことをする使命感はありません。「頂いた請求書は何の疑問もなく、しっかり払う」のです。これが最終的にはCost Overrun(予算超過)の典型的な理由になります。せいぜいそれで担当者のクビが飛ぶ程度です。
こんな労働市場だからこそ、物価はどんどん上がるのです。先日も「カナダの物価はまだ上がるのですか?もう耐えられない」と言われたのですが、「残念ですが、まだ上がり続けるでしょう」と答えています。材料費は上がったり下がったりしているのですが、それに伴う作業賃料が世の中の物価高の原因だとすれば労働市場の質を世界基準で見直さないと物価が下がることはないと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月11日の記事より転載させていただきました。