WindowsPCは12月中に買いなさい

黒坂岳央です。

「来年早々、PCや周辺機器が値上がりする。買うなら年内だ」。 年末商戦の風物詩のような売り文句だが、これを言っているのは筆者ではない。国内の各BTOメーカーを始めとした販売者側だ。そしてそれはセールストークではなく、むしろ親切心のように思える。

現在のハードウェア市場には、これまでの常識が通用しない「構造的なインフレ圧力」が迫っている。

筆者は誰かから紹介料をもらっている立場ではない。あくまで個人の見解として主張させてもらうと、「今買わないと来年は値上がりする可能性が高い」と思っている。根拠を述べたい。

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AIの爆発的需要が価格を押し上げる

一般に、PCの価格変動は「シリコンサイクル」と呼ばれる需給の波に左右される。しかし、現在はAI向けデータセンターの需要が異常なほど強く、メモリメーカー(Samsung、SK Hynix、Micronなど)の生産ラインは、高付加価値なAI用メモリ(HBMなど)へとシフトしている。

結果として、我々が普段使用する一般消費者向けのDRAMやNANDフラッシュメモリの供給が絞られ、価格が高騰しているのだ。これは一過性のブームではなく、産業構造の変化である。影響はPC本体にとどまらない。SSD、HDD、NAS、さらにはメモリを内蔵するネットワークカメラに至るまで、全方位的なコスト増が確定路線となっている。

来年1月から各社が大幅値上げを発表しているのは、原材料コストの上昇を企業努力で吸収できる限界を超えたためだ。来年以降は販売商品の在庫がなくなり次第、値上げしていくだろう。

なお、Macについては少し事情が異なり、今すぐ買いに走る必要はないと思っている。詳細はこちらの過去記事を参照されたい。

「在庫」という名のタイムラグボーナス

現在、国内のBTOメーカーがSNS等で「今のうちに買っておくべき」と発信している背景には、明確なロジックがある。 それは「在庫の評価額」の違いだ。

現在流通している在庫は、まだ価格高騰前のレートで調達された部材で構成されている。しかし、年明け以降にラインに並ぶ製品は、高騰した新価格の部材で製造されることになる。

つまり、現在は「過去の安いコストで作られた製品」を「現在の価格」で買える最後の猶予期間なのだ。企業視点で見れば、メーカー側も値上げによる買い控えは避けたいのが本音だろう。

彼らの警告は、売上の確保という側面もあるが、それ以上に「今の価格設定ではもう作れない」という製造現場の悲鳴に近い。ここは彼らの言葉を疑うより、額面通り受け取って購入計画を前倒しにするのが合理的だろう。

リスクは半導体高騰だけではない

実は来年以降、値上げリスクの懸念材料はもう一つある。為替だ。

「日銀が利上げを行えば円高になる」という経済のセオリーを盲信するのは危うい。事実、これまでFRBが複数回の利下げに動き、日米金利差が縮小しても、劇的な円高回帰には至らなかった。

日本経済のファンダメンタルズが弱体化している現状では、多少の金利差縮小で円が買われる保証はない。むしろ、貿易赤字の定着やデジタル赤字の拡大により、構造的な円安圧力は続いている。

もし来年、地政学リスクや予期せぬ要因で再び1ドル160円を目指す展開になればどうなるか。部材高騰に円安が掛け合わされ、PCの価格は今の比ではなくなる。 「待てば安くなる」は、デフレ時代の成功体験に過ぎない。インフレと通貨安が同時進行する局面では、現金をハードウェアという「現物」に換えておくことが、合理的なリスクヘッジとなり得るのだ。

いつか価格は戻るのか?

もちろん、この主張には反論も想定される。「メーカーの在庫処分に付き合う必要はない」「AIブームが去ればどうせ価格は暴落する」という意見だ。

確かに、過去には暗号資産マイニング需要の剥落後にGPU価格が暴落した事例がある。しかし、現在の生成AI需要は実需を伴う波であり、短期で弾けるバブルとは質が異なる。また、仮にドル建ての部材価格が下がったとしても、円安が進行すれば日本国内の販売価格は下がらない。

「今すぐPCの買い替えは不要」という声もあるだろう。だがPCは消耗品、遅かれ早かれ多くの企業や個人は買い替えを迫られる。どうせ買うならば、コストが最も計算できる「今」動くのが、経済合理性の高い選択といえる。

ビジネスにおいて、決断の先送りは往々にしてコストとなる。 今回のケースにおいて、待つことのメリット(将来的な値下がりの可能性)と、デメリット(部材高騰+円安による大幅値上げ)を天秤にかけると、明らかに後者のリスクが大きい。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。