第2バチカン公会議60周年と「今日」

世界最大のキリスト教宗派、ローマ・カトリック教会の抜本的な刷新について話し合った第2バチカン公会議が幕を閉じて今年で60周年を迎えた。20世紀の最大の出来事と呼ばれた第2バチカン公会議(1962-1965年)は、ヨハネ23世(在位:1958年-1963年)が提唱し、同23世の死後はパウロ6世(在位1963年6月21日-1978年8月6日)が継承して行われた。「教会の現代化(アジョルナメント)」を目指し、現代世界との対話、典礼の刷新(各国語導入)、信教の自由、聖書中心主義、教会一致(エキュメニズム)などカトリック教会の近代化を決めた公会議は、教会内外に多大な影響を与えてきた。

第2バチカン公会議の風景、オーストリアのカトリック通信(KNA)のHPから

ヨハネ23世が公会議を提唱した背景には、教会の閉鎖性、社会からの孤立から、教会が社会に語り掛け、影響を与える力を失ってしまった、という危機感があったからだといわれる。

第2バチカン公会議で最後に採決された「現代世界憲章」(正式名称:『現代世界における教会に関する司牧憲章』)はラテン語でガウディウム・エト・スペスと呼ばれ、「喜びと希望」を意味、第2バチカン公会議の集大成だ。同憲章は公会議の文書としては初めて、カトリック信徒だけでなく「すべての人類家族」に向けて語りかけ、教会が現代世界の課題に積極的に関与し、解決に貢献することを宣言している。

「現代世界憲章」は大きく2部に分かれている。第1部は「教会と人間の召命」で人間と現代世界の根本的な状況を考察している。すべての人は神の似姿として創造されており、その根本的な平等と尊厳が強調されている。人種、性別、言語、宗教などに基づくあらゆる差別は、神の意図に反するとして克服されるべきであると記している。また、人間は社会的な存在であり、個人の完成は社会生活と切り離せないと指摘している。

第2部は「現代の緊急課題に関する司牧的応用」。現代社会が直面する具体的な課題に対し、司牧的な指針を示す。家族生活の神聖さと重要性が再確認され、家族が直面する困難への支援が呼びかけられている。

「現代世界憲章」は、教会が世俗化する世界に対して防御的な姿勢ではなく、対話と協力の姿勢を明確にし、伝統的な教理を現代的な言葉で表現し直し、人間の尊厳、人権、社会正義、平和といった普遍的な価値をカトリック社会教説の中心に置いている。

ドイツのカトリック神学者ウルスラ・ウォラッシュ氏は「1965年12月7日、『現代世界憲章』が採択された際、カトリック信者だけでなく、プロテスタント、東方正教会、そして多くの非キリスト教系信者の間でも、世界的なセンセーションを巻き起こした。今もなお人々にインスピレーションを与え続けている」と説明している。

ちなみに、教皇庁でエキュメニカル問題を担当したカスパー枢機卿は8日、雑誌「コムニオ」(オンライン版)に掲載されたインタビューの中で、「第2公会議は伝統からの離脱ではない。伝統は生きたプロセスだ。デジタルネットワーク化され、多極化する世界において、統一と多様性を意味する新たな世界秩序が出現すれば、多様性の中での統一という新たな問題が世界教会に生じる。これらの問題は、1960年代の二極化した世界や第2バチカン公会議では見られなかったテーマだ」と述べている。

そして「第2バチカン公会議閉幕から60年、灰の下の残り火を再び燃え上がらせるべきだ。公会議の熱狂的な覚醒を経験せず、公会議にほとんど無関心な新しい世代が育ってきた。混乱したポストモダニティの精神的な空虚の中で、福音による刷新が緊急に必要だ」と主張、「再び公会議を開くべきだという声が高まっているが、現時点では機は熟していない。教会だけでなく、世界も深刻な変革の過程の真っ只中にある。教皇が公会議を招集する前に、教会内部ではまず、シノドスの構造が具体的にどのようなものであるべきかを明確にする必要がある」と語っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。