今年の1月2日に恒例の「ひろの10大予想」を書いた際に「2つの戦争はいよいよ最終局面を迎え、停戦が視野に入るだろう」と書かせていただきました。イスラエルの方は停戦しましたが、ウクライナの方は何度もその機運はありましたが、和平交渉が展開するには遠い感じでした。
数週間前にはアメリカの感謝祭までに解決させるという意気込みもありましたが、実態としてはもうすぐ手が届くところに来ているというアメリカからの希望的メッセージに過大なる期待を寄せすぎたきらいはあったと思います。ロシア側も以前ほどの頑なさはありませんが、ディールを積極的に進めているという感じはしませんでした。
一方で前回この話題の際に触れたようにゼレンスキー氏側に思わぬ内政問題が生じてゼレンスキー氏が和平に向けた交渉を展開するにおいて圧倒的不利な形成を作ってしまいました。同国のNo2とも言えるイェルマーク大統領府長官の汚職疑惑に絡む辞任であります。これは国営原子力企業に絡む大型汚職で、エネルギー相と法相が既に辞任をしており、イェルマーク氏が現閣僚としては3人目の辞任であります。

2025年9月 会談するトランプ大統領とゼレンスキー大統領 ホワイトハウスXより
このため、ゼレンスキー氏は戒厳令という理由の下で本来あるべき大統領選を戦争終結後まで延期してきたわけですが、この施策がもはや国内の圧力で維持するのが困難になってしまい、ついに大統領選準備を官僚に指示、安全が確保できるという前提で2-3か月程度で大統領選ができるお膳立てを用意しつつあります。
ここで急速に盛り上がってきたのがウクライナがNATO加盟を諦めるというストーリーです。確定したわけではないのですが、ゼレンスキー氏のこだわりであり、かつウクライナの憲法に記載されているNATO加盟の夢を自国の安全が別の形で担保できるならそれにこだわらないと方向転換を表明したのです。これは大統領選の条件である安全確保の話とつながっているわけです。とすると勝手な推測ですが、新たなウクライナへの安全確保のスキームができた時点で大統領選を行える、ということになり、日程的に26年2月-3月頃に実施可能になるのではないかと考えています。
ではゼレンスキー氏は大統領選に出馬するのか、という点ですが、現時点では本人は明言していません。個人的には出馬しないのではないかとみています。後任の最有力候補は軍の前総司令官で現在英国大使のザルジニー氏であります。ザルジニー氏は総司令官の際、ゼレンスキー氏と戦争作戦について意見が合わず、クビになった経緯があります。同国の世論調査では次期大統領にふさわしい人物としてザルジニー氏が70%でゼレンスキー氏の65%を凌いでいます。ただし、ごく最近のザルジニー氏のインタビュー記事を読む限りでは早急な和平にはあまり積極的ではないようにも感じます。
仮に大統領選を行う、そしてゼレンスキー氏が出馬せず、ザルジニー氏が大統領になればアメリカ、欧州、更にはロシアを含め、作り上げた和平工作が成立しなくなる可能性が出てきます。当然、そのあたりは欧米が十分なる分析をしていると思いますのでゼレンスキー氏在任中に和平を締結してしまうことがむしろ最優先となり、そうなれば多少、ロシアに足元を見られようが決められるべきところで決着させたいという思いが相当高まるのかもしれません。
仮にNATO加盟を諦め、ロシアとアメリカがこだわるウクライナの大統領選もその準備も進むとなれば次の最大の攻防は東部要衝のドネツク州ないしドンバス地方を巡るロシアとの着地点でしょう。アメリカはドネツク州だけにこだわり、ロシアはルハンスク州も含むドンバス地方からの撤退であります。
個人的には撤退する地域の大きさよりもそこを誰がどう管理するのかという問題の方が大きいと考えています。あり得るのは共同管理地として一種の緩衝帯兼経済的に自立できるエリアとして育てる方法です。国連委託でもよいし、欧米やトルコなど第三国による委託統治もあり得るでしょう。トランプ氏のことですから稼ぐ方法を提案するのだと思います。
仮にどういう形で和平交渉が成立したとしても当初の1年ぐらいは部分的なドンパチが起こりうるので当面は第三国の治安維持部隊が駐留せざるを得ないとみています。ただこれで次第に収まっていくのではないかと思っています。これを楽観視と言ってしまえばそれまでですが、欧米の発想は明るい未来を目指して交渉し、突き進むというのが発想の原点であり、日本のように悲観論の中で妥協をするという傾向が強いわけではないので楽観論は時として意味を成すと考えています。
お前の楽観論など聞きたくない、と言われるかもしれませんが、私はこの戦争の当初から戦争反対であり、早急に停戦をして欲しいと願っていました。事実、一昨年の10大予想(24年1月分)でも停戦すると書き込んでいます。年初の10大予想はある意味希望的観測であり、事実をつぶさに分析して当てるための予想ではありません。そういう意味からも私は心底、停戦を望んでいるのであります。今度こそ、という思いは強く持っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月16日の記事より転載させていただきました。





