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現地時間12月19日、米国下院の超党派議員5名は、高市答弁に対する「中国の威圧的な行動(coercive actions)を非難し、インド太平洋地域における同盟国に対する米国のコミットメントを再確認する決議案を下院に提出した。
同決議案のスポンサーは、Young Kim:共和党カリフォルニア州、Ami Bera:民主党カリフォルニア州、Andy Barr:共和党ケンタッキー州、Diana DeGette:民主党コロラド州、Joaquin Castro:民主党テキサス州の5名である。
17日に上院外交委員会に提出された決議案と同様に超党派の下院議員によるものであることは我が国と高市内閣にとって大いに心強い。が、筆者には記述のある一文に懸念を抱く。それは以下の文面だ。
Whereas the People’s Republic of China (PRC) has engaged in diplomatic pressure, economic coercion, and military intimidation against Japan in response to Prime Minister Takaichi’s November 7, 2025, comments before the Japanese Diet that if the PRC were to use battleships against Taiwan or engage in a naval blockade of Taiwan involving the use of force, it could constitute a “survival-threatening situation” for Japan;
一方、中華人民共和国(PRC)は、2025年11月7日に日本の国会で行われた高市首相の発言ー中国が台湾に対して戦艦を使用したり、武力行使を伴う台湾の海上封鎖を行ったりした場合は、それは日本にとって「存立危機事態」となり得るーに対して、外交的圧力、経済的威圧、軍事的威嚇を行っている。
筆者は、17日の米上院外交委員会の決議に関する拙稿で、その中の一説についてこう書いた。
以上の通り決議文は、この事案に関する出来事を事実に沿ってほぼ余すところなく記している。一つ重要な抜けを指摘するなら、「戦艦が使用され、海上封鎖が武力行使を伴う場合、それはいかなる基準においても日本の『生存を脅かす事態』に該当すると考える」の後に高市総理が続けた以下の一節だ。
例えばその海上封鎖を解くために米軍が来援をすると、それを防ぐために何らかの他の武力行使が行われる。こういった事態も想定される・・。
なぜなら「来援した米軍に(中国からの)武力攻撃が行われる」ことこそが「存立危機事態」の「肝」だからである。念のため「存立危機事態」の文言を確認しておくと、令和5年度版防衛白書「第6章 自衛隊の行動などに関する枠組み」に以下のように記されている(太字は筆者)。
3 「存立危機事態」とは、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態。
多くの日本国民は、ここに記されている「わが国と密接な関係にある他国」とは「米国」のこと、と理解している。無論、日本政府もである。台湾も我が国と密接な関係にあることは勿論だ。が、残念なことに現状の台湾は、日本にとって国交関係がない「地域」ではあるが「国」ではない。
筆者が上院議決文の拙稿でこのことに触れずに済ませたのは、上院決議文には高市答弁に触れる前に「日本の国会議員から、仮に中国が台湾海峡を封鎖し、米軍が関与した場合についての質問に対し(in response to a question from a member of the Japanese parliament about a hypothetical Chinese blockade of the Taiwan Strait involving United States forces)」と記されていたからである。
ところが今般提出された下院の決議文には「米軍が関与した場合(involving United States forces)」の一節が欠落している。そうなると、日本は米軍が関与しない場合でも、台湾が中国の戦艦などで海上封鎖されれば日本の「存立危機事態」なるとの誤解を、中国を含めた国際社会に与えることになる。
そもそも、金井アジア大洋州局長がポケ手のカウンターパートに、高市首相は「海上封鎖を解くために来援した米軍に中国が武力攻撃した場合には、日本の存立危機事態になり得る」と述べたのだが、「どこに文句があるのか」と問うたのか、これまでの報道を見る限り未だ判然としていない。
今般の下院超党派議員による決議提出はありがたいことだが、筆者は「存立危機事態」の必要条件には「米軍の来援」があることを、日本政府からスポンサー議員のどなたかに、すぐにでも知らしめておくことが必要だと思料する。