14億円かけて効果は2億円!? 敬老パスが健康政策として割に合わない理由

敬老パスは健康政策として割に合うのか

敬老パスが財政投入額に見合う効果を発揮しているか?

明確なエビデンスは無いため既存のエビデンスを元に緩い試算を出しました。

出展、計算過程は確認しましたが、検索、計算にはChatGPTを使用しました。

間違いがあればご指摘を歓迎します。

要約

  • 高齢者が1日1,000歩多く歩くと、介護費用は年間約7,500円程度減るという推計は成り立つ
  • 大阪市の敬老パス見直しにより、高齢者の公共交通利用は1日あたり約3万人分減少した
  • 公共交通利用は1回あたり約400〜800歩の追加歩行を生むため、敬老パス削減により高齢者1人あたり1日400〜800歩程度の歩行が減った可能性がある
  • これを介護費に換算すると、1人あたり年間3,000〜6,000円程度の介護費増減要因に相当する
  • 影響を受けた高齢者を1.5万〜3万人と見積もっても、大阪市全体での介護費への影響は年間0.5〜2億円規模にとどまる
  • 一方、敬老パス見直しによる公費削減効果は年間約13.7億円とされている

仮に敬老パスが高齢者の歩行量を増やし、介護費を多少抑制していたとしても、その効果は小さく、財政投入額に見合うものとは言い難い。

本論

A.高齢者が1日1,000歩多く歩くと、介護費用は1年間で約7,500円減る

国内の大規模疫学研究(JAGES)では、高齢者の歩行時間・外出頻度と、その後約5年間の累積介護費に明確な差が確認されている。

  • 歩行時間「60分以上」
  • 歩行時間「30分未満」

この2群の間では、約59か月で約11万円の介護費差が生じていた。

歩行時間30分差はおおむね3,000歩差に相当するため、線形に近似すると、

  • 1,000歩/日あたり ≒ 年7,000〜8,000円

介護費が動く計算になる。

本稿では中央値として、

A=1,000歩/日 → B=約7,500円/年

を採用する。

【出典】

  • 平井寛ほか(JAGES)
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット
B.大阪市で敬老パスを見直した結果、高齢者の乗客は約3万人/日減った

大阪市では、敬老パスの見直し(年3,000円負担、のち1乗車50円)以降、

  • 地下鉄:▲約1.5万人/日
  • バス :▲約1.5万人/日

とされ、合計で

C=約3万人/日(延べ乗車)

高齢者の公共交通利用が減少した。

これは「ユニーク人数」ではなく延べ利用である点には注意が必要だが、高齢者の外出行動が確実に減ったこと自体は否定できない。

【出典】

  • 大阪市議会資料
  • 市政改革・交通局関連資料
C.公共交通を使わなくなると、歩数は1人1日約400〜800歩減る

公共交通の利用は、

  • 停留所まで歩く
  • 乗換で歩く

といった理由から、歩行量を自然に増やす。

交通と健康に関するレビュー研究では、

  • 公共交通1回の利用につき、約412歩の追加歩行

が平均的に生じると報告されている。

往復利用を考慮すれば、

D=約400〜800歩/人・日

が失われた可能性がある。

【出典】

  • Rissel et al.
    Journal of Transport & Health
D.その結果、介護費用は1人あたり年3,000〜6,000円動く計算になる

AとCを組み合わせると、

  • 1,000歩 → 7,500円
  • 400〜800歩 → その0.4〜0.8倍

となるため、

E=約3,000〜6,000円/人・年

介護費が増減する要因になる。

これは「要介護化が急増する」という話ではなく、統計的に見た平均的な押し上げ・押し下げ効果である。

E.大阪市全体では、介護費への影響は年0.5〜2億円規模にとどまる

次に、市全体の影響を考える。

敬老パス見直しで影響を受けた高齢者を1.5万〜3万人と仮定すると、

F = 3,000〜6,000円 × 1.5万〜3万人 = 約0.45億〜1.8億円/年

つまり、

大阪市全体でも、介護費への影響は年数千万円〜最大でも2億円程度

というオーダーに収まる。

F.一方、敬老パス見直しによる公費削減効果は約13.7億円/年

大阪市は、敬老パス制度の見直しにより、

G=約13.65億円/年

の財政削減効果があったと公表している。

これは、先に見た介護費の変動幅(0.5〜2億円)を大きく上回る金額である。

【出典】

  • 大阪市「市営交通料金福祉措置の見直し」(平成25年)
G.結論:敬老パスは「健康政策としてはコスパが悪い」

以上をA〜Gで整理すると

  • 敬老パスは高齢者の歩行量を多少は増やしていた可能性がある
  • しかし、その効果を介護費に換算しても、1人あたり年数千円、市全体で年数億円規模にすぎない
  • 一方で、制度維持には年10億円超の公費が恒常的に必要になる

つまり、

介護費を下げる以上にコストが高い制度

という評価になる。

  • 健康寿命の延伸

  • 介護費の抑制

を目的にするなら、敬老パスより費用対効果の高い政策を検討すべきである。


編集部より:この記事は精神科医である東徹氏のnote 2025年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は東徹氏のnoteをご覧ください。