米軍は25日、ナイジェリア政府と連携し、同国北西部で過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点を空爆したと発表した。トランプ米大統領はSNSで「キリスト教徒の虐殺に対する報復を行った」と主張し、「キリスト教徒への殺りくを続けるなら、死者はさらに増えるだろう」と述べ、攻撃を続ける構えを見せたという(時事通信)。

12月26日、カトリック教会はキリスト教最初の殉教者である聖ステファノを記念する、バチカンニュースから
ナイジェリアでは、主にボコ・ハラムやイスラム国西アフリカ州(ISWAP)などのイスラム過激派テロ集団が同国の北東部、北中部、中部ベルト地帯で過激なテロを繰り返している。特に、キリスト教徒は殺害や拉致の標的となっている。
(ISWAPはイスラム国(IS)の分派で、ボコ・ハラムから派生・分裂し、イスラム法に基づいた過激な統治とテロ攻撃を行う武装集団。ナイジェリアやニジェール、チャド、カメルーンなど西アフリカ・サヘル地域を拠点)
カトリック教会からの度重なる要請にもかかわらず、ナイジェリア政府は依然として十分な治安対策を講じておらず、国を揺るがすテロやコミュニティ間の暴力行為を効果的に抑制できていない。
ナイジェリア中部ベルト地帯のキリスト教徒は、暴力的な攻撃の矢面に立たされている。キリスト教徒が多数を占めるこの地域では、フーラニ族の過激派とされる武装集団による殺害、性的暴力、拉致といった被害に遭っている。キリスト教徒の先祖伝来の土地は過激派遊牧民によって奪われ、破壊され、何百万人もの人々が家を失い、職を失い、医療や学校にもアクセスできないまま国内避難民キャンプで暮らしている。キリスト教徒の村々への攻撃の回数と激しさから、一部の専門家は、これらの侵略はキリスト教徒を排除し、この地域をイスラム化するための意図的な土地収奪であると結論付けているほどだ。
2025年6月13日、武装勢力はベヌエ州で約200人のキリスト教徒を大規模に虐殺した。襲撃者たちは「アッラーは偉大なり」と叫びながら、避難民の住宅の扉に火をつけた後、無差別に発砲したと伝えられている。
2025年の世界テロ指数によると、ナイジェリアでのテロ攻撃は2024年に37パーセント減少したが、テロによる死者数は6パーセント増の565人と、2020年以降で最多となった。この増加は主にISWAPとボコ・ハラムの間で継続中の紛争に起因しており、この2つを合わせるとテロ関連の死者数の約60パーセントを占める。特筆すべきは、ボコ・ハラムが2019年以来初めてナイジェリアで最も危険なテログループとしてISWAPを上回り、前年よりも攻撃件数が少ないにもかかわらず、2024年の死者数は175人(18パーセント増)を記録した(「困窮下の教会支援団体」(ACN)の「世界の宗教の自由2025」地域別報告から)。
ナイジェリアは、2億2,700万人以上の人口を抱えるアフリカ最大の国であり、アフリカ大陸有数の経済規模を誇り、有数の石油生産国だ。議会制民主主義体制を採用するナイジェリアは、36の州とアブジャに連邦首都圏を有する連邦共和国として組織されている。同国の1999年憲法では、連邦政府または州政府がいかなる宗教も国教とすることを禁じ(第10条)、宗教的寛容を国民倫理の一部として提唱している。
憲法上はナイジェリアは世俗国家を標榜しているが、実際は、同国北部のイスラム系が強い。北部のキリスト教徒は、政治的排除と雇用機会の減少、キリスト教徒の男性とイスラム教徒の女性との結婚が認められていないこと、公立学校でのキリスト教教育が認められておらず、イスラム教徒の女性が頭を覆うヒジャブをすべての女子生徒が着用しなければならないこと、キリスト教徒の学生は国の奨学金を受けることができず、卒業生は労働市場で差別を受けていること、キリスト教会は土地の購入が認められておらず、一部の教会では建築許可が下りないこと、キリスト教徒の女性や少女は誘拐、強制結婚、強制改宗の危険に直面していることなど、根深い差別について訴えている。
なお、ナイジェリア北西部ソコトのカトリック教会マシュー・ハッサン・クカ司教は、「ナイジェリア北部のイスラム教徒の多くは、キリスト教を植民地主義と結びついた外国の宗教と見なす旧カリフ制(1804~1903年)の感情を今も持ち続けている」という。
ちなみに、ナイジェリアにおける継続的な暴力行為において、宗教的帰属は重要な役割を果たしているが、紛争は貧困、既存の民族間・コミュニティ間の暴力、土地や水をめぐるフラニ族を主体とする遊牧民と非フラニ族の農民間の流血、識字率の低さ、若者の失業、制度の脆弱性、そして統治の不作為など、様々な社会的要因にも起因していることは事実だ。
ナイジェリアのキリスト教徒コミュニティが長年抱いてきた懸念は、憲法上は世俗主義であり、人口の約46.3%はキリスト教徒であり、イスラム教の47.1%とほぼ同じだが、同国が1986年にイスラム協力機構(OIC)に正式加盟を果たす一方、ムハンマドゥ・ブハリ大統領(当時)が率いる連邦政府が2022年、イランとの関係強化するなど、国のイスラム化が進んできたことだ(ACN「2025年報告書」)。
以上、ACNが10月21日に発表した報告書「世界の宗教の自由2025」の地域別報告からの内容を抜粋した。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






