正味の稼ぎが少ない日本政府:付加価値(純)の国際比較

filo/iStock

1. 日本政府の純付加価値

今回は、日本政府の正味の稼ぎである付加価値(純)の国際比較についてご紹介します。

GDPとは稼いだ付加価値の合計で、付加価値の多くは企業が生み出します。

一方で、家計や政府も付加価値を生み出します。

稼いだ付加価値は粗付加価値ともいわれ、固定資産の減価分である固定資本減耗を含みます。

通常、この粗付加価値は付加価値(総)とも表現されます。

英語では、Value added, grossと表記されます。

企業経営においては、付加価値から減価償却費を差し引いた純付加価値が重要とされます。

同様に、GDP統計ともいわれる国民経済計算においても、減価償却費に相当する固定資本減耗を差し引いた純額(Net)が重要とされます。

付加価値においても、付加価値(総)から固定資本減耗を差し引いた付加価値(純)が計算され、公開されています。

英語では、Vaule added, netと表記されます。

政府の稼ぎである付加価値を国際比較してみると、日本の政府は先進国ではかなり少ない方になります。

一方で、政府の固定資本減耗は先進国で中程度で、稼ぎの割に固定資産の維持費用が多い状況です。

付加価値から固定資本減耗を差し引いた正味の稼ぎである付加価値(純)は一体どの程度の水準なのか着目してみましょう。

図1 付加価値・固定資本減耗 一般政府 日本 (OECD Data Explorerより)

図1が日本の政府の付加価値(総)固定資本減耗付加価値(純)の推移です。

日本の政府は稼ぎとなる付加価値(総)が停滞していて、固定資本減耗がやや拡大傾向のため、正味の付加価値(純)はかつての水準よりも目減りしています。

この付加価値(純)には、雇用者の賃金も含まれますので、公務員の人数や給与が抑制されてきた様子も読み取れます。

その割には固定資産への支出(総固定資本形成)やその維持費(固定資本減耗)が多いというのが日本政府の特徴のようです。

これは、日本の場合政府だけでなく、企業にも当てはまる傾向と言えます。

2. 1人あたりの推移

政府の付加価値(純)の水準について、人口1人あたりのドル換算値と、対GDP比で国際比較していきましょう。

まずは人口1人あたりの推移から見てみたいと思います。

図2 付加価値(純) 1人あたり 一般政府 (OECD Data Explorerより)

図2は政府の付加価値(純)について、人口1人あたりのドル換算値(為替レート換算)の推移を表現したグラフです。

日本は1990年代は他国と同程度でしたが、停滞傾向が続くうちに、他国との差が大きく開いています。

韓国にも2010年代には追い抜かれています。

2023年にはアメリカやカナダの約4分の1、フランスの3分の1以下、ドイツの半分未満です。

日本の政府の正味の稼ぎは相対的にかなり低い水準となっているようです。

日本は民営化も進み、生産面で見れば政府の稼ぎの少ない小さな政府ということになりそうですね。

3. 1人あたりの国際比較

人口1人あたりの政府の付加価値(純)について、より広い範囲で国際比較してみましょう。

図3 付加価値(純) 1人あたり 一般政府 2023 (OECD Data Explorerより)

図3は、主に先進国で構成されるOECDにおける、政府の付加価値(純)の水準を比較したグラフです。

日本は1,722ドルで、OECD34か国中31番目の順位です。

上位はノルウェー、デンマーク、スウェーデン等北欧諸国や、ルクセンブルク、スイスなどの所得水準の高い国が並びます。

日本の政府が稼ぐ正味の付加価値は、金額で見れば非常に少ない水準である事がわかります。

4. 対GDP比の推移

次に、もう1つの比較方法として対GDP比についても眺めてみましょう。

図4 付加価値(純) 対GDP比 一般政府 (OECD Data Explorerより)

図4は主要先進国における政府の付加価値(純)対GDP比の推移です。

日本は5~6%くらいで推移していて、他の主要先進国と比べるとかなり低い水準が続いています。

2000年代以降は徐々に低下傾向なのも確認できますね。

韓国に抜かれ差が開いているとともに、2023年ではフランスやカナダの半分未満、イギリスやOECD平均の半分近くの水準です。

5. 対GDP比の国際比較

最後に、政府の付加価値(純)対GDP比について国際比較してみましょう。

図5 付加価値(純) 対GDP比 一般政府 2023年 (OECD Data Explorerより)

図5が2023年の国際比較です。

日本は5.1%でOECD34か国中最下位となっています。

先進国の中で最も政府の稼ぐ正味の付加価値の割合が小さい国ということですね。

6. 政府の付加価値(純)の特徴

この記事では、政府の付加価値(純)について国際比較した結果を共有いたしました。

日本の政府の付加価値(純)は金額で見ても、対GDP比で見ても先進国の中ではかなり少ない水準となります。

そもそもの付加価値(総)が少なく、固定資本減耗は先進国中程度ですので、差引の付加価値(純)は殊更少なくなるようです。

政府による公共投資の維持費用はそれなりに高いけど、政府の労働者(公務員)による正味の付加価値が非常に少ないという特徴があるようです。

図6 雇用者報酬 対GDP比 一般政府 (OECD Data Explorerより)

公務員への労働の対価となる雇用者報酬について見てみても、日本は圧倒的に小さな割合である事がわかります。

大きな政府、小さな政府という表現がありますが、生産面において政府の付加価値を見ると日本は小さな政府と言えるのかもしれません。

高福祉・高負担と言われる北欧や、フランスは真逆の状況なのが興味深いですね。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。