「ロシア崩壊」の可能性に全てを賭ける「ウクライナ応援団」の苦境

ロシア・ウクライナ戦争の停戦協議が、じりじりと進んでいる。今やゼレンスキー大統領のウクライナ政府も、「20項目の和平案」を出し、ドネツク州に経済特区を設置するといいう対案を出してくるところまで来た。「20項目の和平案」については、まだまだ非現実的な要素がある。さらなる協議が続くだろう。しかし対案に対案で応じるやり取りが見られるようになっている。トランプ政権発足前と比べれば、すでに大きな変化が訪れていることは明らかである。

この状況で、苦しい立場に陥っているのが、「ウクライナは勝たなければならない」と「主張」してきた、世界中の「ウクライナ応援団」の方々である。もうウクライナは勝たなくていい、とは言えないので、過去の言説については黙っているか、微妙な修正を加え始めている。しかしまだ停戦を支持はしたくないため、とにかくいずれにせよ何とか戦争が続いていくことを望んでいるようである。

ウクライナ政府提案20項目和平案と日本の識者の動向:千々和泰明氏の議論を題材に
本稿は、トランプ政権下で進展する停戦交渉とウクライナ政府の20項目和平案を踏まえ、欧州・日本の疲弊と日本の専門家言説を検討する。とくに千々和泰明氏の議論を題材に、停戦拒否と戦争長期化を正当化する前提――ロシア全面占領意図や「アフガン化」類推――の妥当性を批判し、現実的目標を欠いた支援継続の危うさと専門家の責任を指摘する...

しかし今やウクライナ支援に具体的な戦略的な目的があるとは言えない。戦争継続そのものが目的化している印象だ。

苦境を脱するためには、むしろさらにいっそう対ロシア経済制裁を強めるべきだ、という主張もある。しかし財政問題と低成長に悩まされる欧州や日本の主要ウクライナ支援国は、満身創痍の状態だ。中国とインドに二次制裁を科して、世界戦争を挑むかのような冒険的な行動をとれる状態とは思えない。

そもそも欧州と日本の二次制裁などに、中国とインドが屈服する可能性が乏しい。仮にアメリカが加わっても難しいことに変わりはないが、今のトランプ政権ではアメリカがそのような過激な案に同調する可能性が乏しい。

BS-TBS 報道1930 12月25日放送より

アメリカは、2025年7-9月期の成長率が4.3%だったことが話題になったが、年率で2%程度は確保できそうである。日本のネトウヨ勢力が盛んに「崩壊近し」と喧伝している中国については、2025年の経済成長率は5%程度が見込まれている。インドは7%程度を維持する見込みである。さらに「ウクライナ応援団」が「崩壊近し」と喧伝しているロシア経済も、日本や欧州同様に、1%程度の成長は確保するようである。

中国経済以上にロシア経済も失速していることは確かなようだが、昨年のロシアの経済成長率は4%を超えていた。「ウクライナ応援団」系の方々は、「昨年よりも数字が下がっている」、ということをもって「ロシア経済崩壊近し」と主張するのだが、果たしてそこに話の飛躍がないかどうかは判然としない。

しかし本来であれば「ウクライナは勝たなければならない」ので、仮に戦場でウクライナ軍がロシア軍を駆逐して勝利を収めることが難しいことがようやくわかってきたとすれば、それを公に認める前に、ロシアが崩壊してくれなければ、困る。

誰が「困る」のかというと、ずっと「ウクライナは勝たなければならない」ので、「日本はウクライナの求めに応じてどこまでも支援し続けなければならない」と主張してきた「ウクライナ応援団」系の政治家や官僚、あるいは学者や評論家の方々が、「困る」。

上述のようにロシア経済が失速してきていることは確かなようだが、ウクライナ経済がさらに厳しい状態にあり、外国援助に完全に依存した状態にあることは、周知の事実である。戦争が終わった後も、仮に「崩壊」はしないとしても、相当に長期に渡って、ウクライナが外国援助に依存した状態が続くことは、必至である。日本は、相当に長期にわたり、ウクライナを財政的に支え続けることになる。

欧州でもドイツ経済の低迷が著しい。長く欧州経済を支えてきた牽引車であるだけに、欧州全体に懸念が立ち込める。しかし日本同様に、軍拡路線に舵を切る覚悟だけは確かなようである。

それで、果たして、日本経済は万全なのか。万が一にも、ロシアや中国よりも先に、日本経済が立ち行かなくなる、などという「想定外」の事態が起こる可能性は、全くないのか。

もちろん日本社会の中枢を形成するに至った「ウクライナ応援団」系の方々にとっては、政治家や官僚であっても、学者や評論家であっても、その可能性は、絶対に語ってはいけないタブー中のタブーである。もはや行くところまで行って確かめるしかないようである。

(補足)ウクライナを支援する国際政治学者たち:「慶応系」と「(早稲田/)防衛研究所系」
 本稿は、前回の記事の議論の補足として、一般に「ウクライナ応援団」とも総称されており、互助的関係も築いているウクライナ支援の論陣をはる研究者たちを、「慶応系」と「(早稲田)防衛研究所系」の二つの大きな系統にそって、リスト化しておく。

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