各自治体で長年続いてきた「シルバーパス」「敬老パス」。
高齢者の外出機会を増やし、健康寿命を延ばし、地域での消費を促す――こうした目的で導入されてきた制度です。
私はこの制度について、「全く意味がない」と言うつもりはありません。
実際、いくつかの自治体では一定の効果を示唆する調査も存在します。
しかし、結論から言えば、費用対効果という観点では、極めて悪い政策だと考えています。
シルバーパス 東京都HPより
名古屋市の事例が示す「ゼロではない効果」
たとえば名古屋市では、敬老パス事業について継続的な調査が行われています。
それらを見ると、
- 外出頻度が増えた高齢者が一定数いる
- 社会的孤立の防止に寄与している可能性がある
- 医療費抑制効果を示唆する分析も一部にはある
といった点が指摘されています。
この点については、「効果はゼロではない」という認識は共有します。
問題は「かけたコストに見合っているのか」
しかし、政策評価で最も重要なのは相対評価です。
- 年間で数十億円規模の財源
- 利用者の多くは、もともと外出・移動が可能な元気な高齢者
- 本当に支援が必要な高齢者ほど、制度を十分に活用できていない現実
これらを踏まえると、
同じ財源を使えば、もっと大きな効果を生む政策があるのではないか
という疑問は、どうしても拭えません。
仮に健康寿命の延伸や社会参加の促進が目的であれば、
- 低所得高齢者への重点的支援
- フレイル予防や介護予防への直接投資
- 地域コミュニティづくりへの支援
など、よりターゲットを絞った政策の方が、はるかに効率的ではないでしょうか。
将来世代への投資という視点が欠けている
さらに深刻なのは、世代間の公平性です。
少子高齢化が進む中で、
- 教育
- 子育て
- 若年層・現役世代への投資
は、明らかに後回しにされ続けています。
限られた財源を、
「すでに人口も投票行動も多い世代」に厚く配分し続けることが、
本当に持続可能な社会につながるのでしょうか。
私はそうは思いません。
減税という選択肢も、もっと真剣に議論すべき
もう一つの選択肢は、減税です。
シルバーパス・敬老パスのような一律給付型政策は、
- 利用する人としない人の不公平
- 行政コストの増大
- 効果測定の難しさ
といった問題を常に抱えています。
それであれば、
- 税や社会保険料を少しでも下げる
- 現役世代・子育て世代の可処分所得を増やす
こうした形で、国民全体の自由度を高める方が、結果として経済も社会も活性化する可能性があります。
「続いてきたから続ける」政治を終わらせる
シルバーパス・敬老パスは、善意から始まった制度です。
しかし、善意で始まった制度ほど、見直しが難しい。
だからこそ、政治が冷静に問い直さなければなりません。
- 本当に効果はあるのか
- 他にもっと良い使い道はないのか
- 将来世代に胸を張れる選択か
私は、
「効果はゼロではないが、費用対効果は極めて悪い」
この現実から目を背けるべきではないと考えています。
限られた財源を、未来をつくるためにどう使うのか。
その覚悟が、いま政治に問われています。
編集部より:この記事は、前参議院議員・音喜多駿氏のブログ2025年12月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。