労働力人口が初の7000万人超えなのに人手不足なのはどうして?

女性や高齢者の就労拡大を背景に、日本の労働力人口は過去最高水準に達しつつある。一見すると人口減少下での明るい材料にも見えるが、その内実を詳しくみると、経済成長につながりにくい構造的な問題が浮かび上がっている。

  • 総務省の労働力調査によると、労働力人口は2025年平均で初めて7000万人を超える見通しとなり、11月時点では7033万人に達した。人口減少が進む中でも、労働市場への参加者は増え続けている。
  • 増加を主導しているのは女性と高齢者で、女性の労働力人口は最低賃金の上昇や就労環境の改善を背景に大きく伸びた。65歳以上の就労も、雇用確保義務や企業側の制度整備によって拡大している。
  • 外国人労働者も増加傾向にあり、就業者全体に占める割合はなお小さいものの、前年比で高い伸びが続いている。結果として、労働力人口は従来の将来推計を上回るペースで増えている。
  • その一方で、1人当たりの労働時間は減少している。パートなど短時間労働の拡大により、就業者数は増えても、経済全体で投入される労働量は伸び悩んでいる。
  • 税や社会保険料の負担を避けるため、「年収の壁」を意識して就業時間を抑える動きも根強い。所得税の非課税枠引き上げなど制度見直しは進むが、社会保険加入や扶養の基準といった別の「壁」は残ったままだ。
  • 専門家の間では、就業者数の増加だけでは経済成長は難しいとの指摘が出ている。安倍政権下の働き方改革は、本来目指していた雇用の流動化を十分に進められず、残業時間の厳格な上限規制が中心となった。

  • 残業規制は労働環境改善に一定の効果をもたらした一方で、企業の柔軟な人材活用を妨げ、生産性向上につながりにくいとの批判もある。解雇ルールを明確に法制化し、労働者が企業から自由に移動できる環境を整える改革が必要だとの声が強まっている。

労働力人口は過去最高水準に近づいているが、労働時間の減少や制度的な制約により、経済成長への寄与は限定的である。今後は、単に働く人を増やす政策から、労働の質と流動性を高める改革へと軸足を移せるかが、日本経済の持続的成長を左右することになる。