トランプ大統領は問題にせず、進む米中接近のシグナル
中国が台湾周辺で軍事演習を実施したことを受け、米国政府内から抗議の声が上がった。ただし、その発信源は大統領でも国務長官でもなく、国務省の副報道官だった。この点は、現在の米国の対中姿勢を読み解くうえで象徴的である。
国務省副報道官は、中国の行動が地域の緊張を高めるとして懸念を表明し、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて強調した。形式的には、従来の米国の立場を踏襲した発言といえる。しかし、その一方で、トランプ大統領自身はこの軍事演習について「特に問題視していない」との認識を示しており、政権中枢の温度差は明確だ。

トランプ米大統領と中国・習国家主席が会談 トランプ大統領と習国家主席 2025年10月30日 中国共産党新聞より
「誰が語ったのか」が示すメッセージ
今回の抗議が発せられたのは、大統領でも国務長官でもなく、国務省報道官ですらない副報道官のレベルである。この事実は、対中関係において米国が強い政治的メッセージを発することを意図的に避けていることを示唆している。
同盟国、とりわけ台湾や日本に対しては、「米国は懸念を共有している」という最低限の安心材料を提供する。一方で、中国側に対しては、首脳レベルでの非難や対抗措置を示さず、事態をエスカレートさせない。この二重のシグナルこそが、現在の米国外交の特徴である。
米中ディールを見据えた抑制的対応
こうした慎重な姿勢の背景には、米中関係の大きな流れがある。2026年は、トランプ政権にとって対中接近が本格化する年と位置づけられている。
関税、貿易、為替、先端技術――こうした分野での「米中ディール」を見据えれば、台湾をめぐる軍事的緊張を理由に関係を悪化させることは、トランプ政権にとって合理的な選択ではない。
同盟国への「最小限度の安心供与」
その結果として現れているのが、今回のような対応である。
すなわち、
- 同盟国に対しては、国務省レベルで形式的な抗議を行う
- しかし、大統領は前面に立たず、問題を大きく扱わない
- 中国に対しては、交渉環境を損なわない範囲に抑える
これは、強固な抑止というよりも、摩擦管理と取引空間の確保を優先するアプローチといえる。
台湾問題は「管理対象」へ
トランプ大統領が中国の軍事演習を懸念しない姿勢を示したことは、台湾問題が米中関係において「価値の問題」ではなく、「管理すべきリスク」に位置づけられつつあることを示唆している。
米国は台湾を即座に見捨てるわけではない。しかし、台湾問題を理由に米中関係全体を対立構造に戻す意志も見られない。今回の副報道官による抗議は、そのバランスの上に成り立つ、極めて計算されたメッセージといえる。
語られなかったことの意味
今回の一連の対応で重要なのは、「何が語られたか」以上に、「誰が語らなかったか」である。大統領も国務長官も前面に出ないという選択は、トランプ政権が対中関係において、衝突よりも取引を優先していることを明確に示している。
中国の軍事行動に対する米国の反応は、今後もこのような形で管理されていく可能性が高い。同盟国への配慮と米中ディールの追求。その間で取られる「最小限度の安心供与」は、トランプ外交の現実主義を象徴するものといえるだろう。






