勤勉でなくなった日本人

黒坂岳央です。

昨今、SNSやメディアを眺めれば「無理をするな」「自分を大事に」「もっと休んでいい」といった優しい言葉が溢れている。もちろん、人によっては本当に頑張りすぎていて休む必要性があるだろう。だが、逆に「休んでばかりで大丈夫なのか?」という人もいるだろう。

筆者は、いわゆる就職氷河期世代である。この時代、世間からそんな優しい言葉をかけられた記憶はほとんどない。思春期に手に取った超ベストセラー本には「こんな生きづらい世の中なら、選択肢としていっそ死んでしまうのもありだ」という提案すらあった。それが当時の閉塞感漂う社会のリアルな代弁であった。

確かに、限界まで追い詰められた人が足を止めることは必要だ。しかし一方で、甘やかしすぎると人間はダメになってしまう。

Yuto photographer/iStock

「日本人は働きすぎ」という幻想

「日本人は頑張りすぎだ」という意見をよく聞く。筆者もかつてはそう信じていた。だが、働き方改革が浸透した今、もはやその認識は過去のものだ。

OECDの労働時間統計(2024年)では日本は年間約1,600時間程度で、OECDの平均約1,740-1,750時間より「下」である。長時間労働がなく、家族優先のイメージがある米国は約1,800-1,900時間超で日本より長く働いている。

実際、データだけでなく外国人の働く様子を見れば分かる。かつて米国に留学した際、多国籍の学生たちが深夜まで図書館に籠もり、猛烈に研鑽を積む姿を目の当たりにした。外資系企業に身を置けば、外国人ビジネスパーソンが深夜3時に退社し、翌朝7時の会議に平然と出席する光景も実際に何度も見てきた。

旺盛なインバウンド需要で日本で働く外国人も非常に長時間、休日も働いている人はまったく珍しくない。「稼げるなら働く」というハングリーさを感じる。

複数の労働時間の統計データや一緒に外国人と働いた経験からも、「日本人は働きすぎ」ではないといえる。「外国人は店舗でおしゃべりをしてダラダラ働いているのでは?」みたいな反論がありそうだが、それはその人の目にはハードワークする人が見えないからに過ぎない。

結局、どの国でも働く人、そうでない人に分かれる事実は変わらない。そうなると水平比較は「個人の肌感覚」ではなく、統計に委ねられるがその統計が「働き過ぎではない」と結論づけている。

学ばない日本人

さらに大きな問題は「日本人は学ばない」ということだ。業務時間外に熱心に勉強する人はほとんどいない。

総務省の2025年情報通信白書(2024年度調査)によると、個人の生成AI利用率は日本でわずか26.7%にとどまる。一方、中国は81.2%、米国68.8%、ドイツ59.2%と、先進国・新興国ともに日本を大きく上回っている。企業レベルでも、日本企業の生成AI業務利用率は55.2%程度で、他国(中国・米国・ドイツの多くが90%近く)と比べて低い水準だ。

仕事が終わったらすぐにプライベートモードに切り替わり、スキルアップのための自主学習をしない人が圧倒的に多い。

OECDの成人学習参加率調査でも日本は国際的に低位で、業務時間外の自己投資が少ないことが指摘されている。過去の社会生活基本調査では、社会人の1日あたりの学習・自己啓発時間が平均13分程度というデータもあり、学びの習慣が希薄な実態が浮かび上がる。

とても「勤勉」と言える状態ではないのだ。

子供の内から努力格差

また、筆者の周辺の子どもたちを見ても、格差の現実は明白だ。学習塾や部活でトップを走る子らは、普通のサラリーマンが足元にも及ばないほどのハードワークをこなしている。夜遅くまで勉強し、翌朝も部活。休日も努力を惜しまない。

一方で持ち時間のすべてをスマホに吸い取られている子もいる。もちろん、中間層の子がボリュームが多いわけだが、小さい頃から圧倒的な格差がつくとそのまま思春期、社会人へと継承されていく。

「努力できるのも才能だ」という意見は正論かもしれない。しかし、「自分が頑張れない」といっても、他者は努力を止めてくれない。 努力が報われる社会システムの改善も必要だが、現実は待ってくれないのだ。

仮にスマートに、短時間で高い付加価値を出したいと願うなら、その「賢く動く技術」を習得するためにこそ、膨大な努力が必要となる。

また、「お金がないから勉強できない」「日本は貧しくなったから」という意見もありそうだが、それはズレた反論だ。

生成AIの基本機能は無料で利用可能だ。今やYouTubeや無料オンライン講座も山ほどあり、意欲さえあれば世界レベルの学びが手に入る時代だ。書籍も図書館で借りればタダ。本も母国語で高度専門技術まで学べる。ネットも格安か図書館なら無料で使える。これほど恵まれた学習インフラがあるので経済力は決定的要素ではない。

逆境こそが「真の安定」を教えてくれた

筆者が大学を卒業し、就職活動に臨んだのはリーマン・ショック直後だった。今とは比較にならないほどの就職不況であり、ようやく入った会社は過酷なブラック企業。果ては社長に疎まれて解雇されるという、どん底の経験もした。

しかし今、振り返れば、あの厳しい環境に身を置けたことは幸運だったと確信している。

世の中に「安定」など一つも存在しないことを、身をもって知ることができたからだ。その危機感があったからこそ、「自分自身が強者になることこそが、真の安定」という本質に辿り着いた。

土日も返上でスクールに通い、自己研鑽に励んだ結果、年収を上げ、生き抜く力を獲得できた。もしあの時、周囲からとことん甘やかされていたら、今の自分は間違いなく脱落していただろう。

狩りを忘れた動物に未来はない

以前、北海道の動物園でスタッフから聞いた言葉が忘れられない。

「ここの動物たちは、もう野生には帰れません。狩りの仕方を忘れてしまったからです」

あくまで比喩だが、これは人間社会にもかなり当てはまる。我々は本来、生きるか死ぬかの厳しい国際競争の渦中にいる。だが、過度な優しさに包まれ、その現実を忘却してしまうと、「サバイバル能力」は瞬く間に退化する。

一度、過度な休息や現場からの離脱に慣れてしまうと、再起は容易ではない。早期退職した者が社会復帰に苦戦するのも、かつての「狩りの感覚」を失ってしまうからだ。

自分を大事にすることは、自分を甘やかすことと同義ではない。本当に自分を大切に思うのであれば、過酷な環境でも生き抜ける「強さ」を養うべきだろう。本当に休むべきか?もしくは停滞している場合ではないか?今一度問い直す時が来ている。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。