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この記事では、GDP分配面のうち雇用者報酬について解説します。
1. 雇用者報酬とは
今回は改めてGDP分配面のうち、雇用者への分配となる雇用者報酬について確認していきましょう。
GDP(国内総生産)とは、日本全体で生産された付加価値の合計です。
製造業や建設業、卸売業などの経済活動別の稼ぎ=付加価値を全て足し合わせたものがGDP(Gross Domestic Product)です。
このように、生産側から捉えた場合はGDP生産面と呼ばれます。
一方で、GDPとは支出の合計でもあります。
家計や政府による最終消費支出と、投資(総固定資本形成)、海外との取引(純輸出)という支出額を合計した国内総支出(GDE:Gross Domestic Expenditure)がGDPと一致します。
GDEはGDP支出面とも呼ばれます。
さらに、GDPは所得の合計とも一致します。
労働力を提供した雇用者への分配となる雇用者報酬、固定資産の目減りした価値を表し資本への分配となる固定資本減耗、政府への分配となる税金(生産・輸入品に課される税-補助金)と、企業側に残る営業余剰・混合所得です。
これらの分配を合計した国内総所得(GDI:Gross Domestic Income)もGDPと合致し、GDP分配面あるいはGDP所得面と呼ばれます。
雇用者報酬とは私たち家計の主な所得となり、多くの人はこれを元手に支出し、生活を営みます。
雇用者報酬は、企業に雇用されている雇用者に分配される所得で個人事業主への分配は含まれませんので注意が必要です。
雇用者(Employees)とは、内閣府の資料によれば次のように定義されています。
雇用者とは、市場生産者・非市場生産者を問わず、JSNA上のあらゆる生産活動に従事する就業者のうち、個人事業主と無給の家族従業者を除くすべての者であり、法人企業の役員、特別職の公務員、議員等も含まれる。
2008SNA に対応した我が国 国民経済計算について
企業の役員も企業経営という仕事を行い、役員報酬という給与を受け取る雇用者です。公務員や政治家も同様ですね、組織に所属し公務や政治活動という仕事を行う雇用者となります。
個人事業主(Self employment)と雇用者を合わせたものが就業者(Total employment)となります。
雇用者報酬とは、次のように説明されています。
生産活動から発生した付加価値のうち、労働を提供した雇用者(employees)への分配額を指すもので、第1次所得の配分勘定では、家計部門の受取にのみ計上される
雇用者報酬と聞くと難しそうに聞こえますが、労働者として直接受け取る賃金・俸給に、社会保険料の企業側負担分などの雇主の社会負担を加えたもので、企業側から見た人件費として捉えれば良いと思います。
社会保険料などの負担は、一旦企業側負担分と共に労働者に分配されたと見做し、その後政府へ分配された上で、社会保障給付として再分配(所得の第2次分配勘定)されるという扱いとなります。
労働者としては受け取らない分も含めて、一旦家計に分配されると見做す迂回処理となります。
再分配の仕組みや負担率などが国によって異なるため、統一的に扱えるようにこのような処理をしているようです。
経済統計を見る際には、ひとまず企業側から見た人件費という意味合いで理解しておけば良いのではないでしょうか。
2. 日本の雇用者報酬
続いて、具体的に日本のGDPの分配面から、雇用者報酬の推移を可視化してみましょう。
図1 所得の発生勘定 日本
国民経済計算より
図1はGDP分配面と呼ばれる所得の発生勘定をグラフ化したものです。
GDPが誰にどの程度分配されているのかがわかりますね。
雇用者報酬は経済のピークとなった1997年に278.6兆円でしたが、2023年には301.2兆円の23.8兆円増加しています。
ただし、このうち直接雇用者に支払われた賃金・俸給は0.4兆円にしかすぎません。
増加分のほとんどは雇主の社会負担となります。
社会保険料の負担が増えた事もあり、雇用者報酬としては増えているけれど、賃金に反映されにくい状況がこのようなところでも確認できます。
実際には、賃金・俸給の中から天引きされる社会保険料を支払うため、可処分所得は更に減っている事になりそうです。
企業側から見た人件費は拡大しているが、実際に給与として支払われている分はそれほど増えていないと見た方が良いでしょう。
GDPに対する割合としては、1997年で66.3%、2023年で68.1%です。
3. 日本の雇用者数
日本の生産年齢人口は既に減少していますが、日本では労働者(就業者)が増えています。
就業者と雇用者の関係を確認しておきましょう。
図2 就業者数・雇用者数 日本
国民経済計算より
図2は日本の就業者数と雇用者数の推移です。
日本の就業者数は1997年以降も大きく減ることなく、近年では増加傾向となっていて、2023年には6855万人と当時の水準を超えています。
内訳を見ると個人事業主(無給の家族従業者含む)は減少傾向が続いていて、雇用者は増加傾向が続いています。
就業者に占める雇用者の割合は89.1%にまで高まっています。
4. 雇用者の労働時間
日本の場合雇用者数は増えていますが、その多くが女性や高齢のパートタイム労働者が多いようです。
労働時間の短いパートタイム労働者が増えることで、構成比が変化し、全体の平均労働時間が短くなっている事が確認できます。
図3 雇用者の総労働時間・平均労働時間
国民経済計算より
図3は日本の雇用者数(赤)、雇用者の総労働時間(青)、雇用者の平均労働時間(緑)をまとめて表現したものです。
雇用者数は増えていますが、その多くはパートタイム労働者で、平均労働時間としては短くなっています。
ただし、雇用者全体の総労働時間は横ばい傾向が続き、一定水準が維持されてきたことになります。
5. 雇用者の賃金水準
最後に、雇用者の賃金水準について見てみましょう。
図4 雇用者の賃金水準
国民経済計算より
雇用者報酬を雇用者数で割った雇用者1人あたり雇用者報酬を見ると、1997年のピーク509万円から減少傾向がつづき、リーマンショックの影響が大きい2009年以降は上昇傾向に転じています。
2023年になっても当時の水準まで戻っていません。
何故このようになっているのかを考えた場合、男性の現役世代が同様の推移をしている事と、女性・高齢のパートタイム労働者が増えた事が考えられます。
より実際的な賃金水準の変化を見るのであれば、雇用者1人あたりだけでなく、労働時間あたりの時給水準で見た方が良いかもしれません。
労働時間あたり雇用者報酬(赤)を見ると、雇用者1人あたり雇用者報酬に比べて1997年以降の減少傾向が緩やかで、2009年以降の上昇傾向が強い事が確認できます。
時給水準で見れば、そこまで下がっておらず、むしろ近年は上昇傾向が強い事になりますね。
雇用者1人あたり雇用者報酬は1997年で2,699円、2023年には2,974円と1割ほど上回っています。
とはいえ、つい最近までは当時の水準から目減りしていた時期が長く続いていた事に変わりはないようです。
また、労働時間あたり賃金・俸給で見れば、さらに近年の上昇傾向は緩やかとなっていて、1997年に対する増加具合も小さい事がわかりますね。
6. 日本の雇用者報酬の特徴
今回は日本の雇用者や雇用者報酬についてご紹介しました。
日本では個人事業主が減り雇用者が増えるという変化が進み、雇用者数自体は増加傾向が続いてきました。
ただし、雇用者報酬は横ばい傾向が続いています。
企業側から見た1人あたりの人件費と言える雇用者1人あたり雇用者報酬は、増えない雇用者報酬を、増加している雇用者数で割るため、1997年のピーク時よりも目減りしています。
ただし、雇用者数は増えても、その多くがパートタイム労働者のため、総労働時間自体は横ばい傾向です。
労働時間あたりで見た雇用者報酬は当時の水準を超えていて、時給水準で見れば上昇傾向が強い事が確認できます。
女性や高齢労働者が今後は増えにくくなる中で、更に賃金水準が上昇していくのか非常に興味深い状況と言えますね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2026年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。