「無理です」が言えない病——断れる人は年収が高いという話

NORIMA/iStock

ある調査が気になっている。

カリフォルニア大学の研究で、「断る力」と収入には正の相関があるという結果が出た。断れる人ほど稼いでいる。逆に言えば、何でも引き受ける人は搾取されやすい。

イライラ、さよなら。 不機嫌から卒業するための48のポイント」(堀内 恭隆 著)すばる舎

金曜の夜9時、上司からLINE。「月曜までにお願いできる?」

指は勝手に動いていた。「承知しました」。送信。3秒後に後悔した。土日が消えた。

日本労働組合総連合会の調査によると、20代の約4割が「断ることに強いストレスを感じる」と答えている。俺もその一人だった。断ったら評価が下がる。嫌われる。そう思い込んでいた。

ところがハーバード・ビジネス・スクールの研究が面白い。適切に「No」を言う人は、むしろ信頼度が上がるというのだ。理由は単純で、「この人が引き受けたなら本当にやる」と思われるから。何でも「Yes」と言う人間は、逆に信用されない。

「No」の言い方にもコツがある。コロンビア大学の交渉学では「条件付きYes」を推奨している。「月曜は厳しいですが、水曜なら可能です」。これなら相手も傷つかない。断っているのに断った感じがしない。狡猾だが、使える。

心理学者のアダム・グラントは著書『GIVE & TAKE』で、「自己犠牲型のギバー」が最も燃え尽きやすいと指摘している。与えるだけで境界線を引けない人間は、結局つぶれる。皮肉なことに、適度に断る人のほうが長期的には多くを与えられるのだ。

最近、管理職研修で聞いた話も印象的だった。「部下が断れない環境は、上司の責任だ」と講師が言い切った。無理な依頼をしている自覚がない上司が多すぎる、と。確かにそうだ。俺の上司も「え、そんなに大変だったの?」と言っていた。悪気はなかったのだ。たぶん。

だから、まずは伝えることだ。限界を。状況を。「無理です」の一言が言えなくても、「これくらい時間がかかります」とは言える。そこから始めればいい。年収が上がるかは知らん。でも、土日は取り戻せる。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

<書籍評価レポート>

■ 採点結果
【基礎点】  35点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】  18点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】  18点/25点(独創性、説得性)

■ 最終スコア 【71点/100点】

■ 評価ランク ★★☆ 一定の価値がある書籍

■ 評価の根拠

【高評価ポイント】

  • 具体的データの活用:Atlassian調査、Microsoft調査、Shopify事例、カリフォルニア大学・ハーバードBSの研究、アダム・グラント『GIVE & TAKE』など、国内外の調査・学術知見を豊富に引用し、主張に客観性を持たせている
  • 実践的な提案:「25分会議」「2ピザルール」「条件付きYes」など、読後すぐに職場で試せる具体策を複数提示しており、実用性が高い
  • 共感性の高い構成:「金曜夜のLINE通知」「コンビニでコーヒーを買いながら」など、ビジネスパーソンの日常に根ざした場面設定で読者を引き込む力がある

【課題・改善点】

  • テーマの既視感:テーマは類書でも頻出しており、切り口そのものに新規性が不足している。海外企業の事例が中心で、日本企業特有の組織文化への具体的処方箋が手薄である。心理分析の浅さ:怒りやストレスの感情面に触れているが、「なぜ断れないのか」「なぜ会議が長引くのか」という心理的メカニズムへの踏み込みが表層的に留まっている。

■ 総評
職場における普遍的テーマを、海外の調査データと学術研究を交えながら論じた実用書である。文献の引用により主張に厚みを持たせ、「条件付きYes」「25分会議」など即実践可能なテクニックを提示している点は評価できる。
一方で、テーマ自体の既視感は否めず、日本の職場文化に即した独自の分析や事例が不足している。感情を切り口にした構成は興味深いが、心理的メカニズムへの深掘りが浅く、類書との差別化には課題が残る。新たな知見を求める読者にはやや物足りない一冊といえる。

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)